45.夏休み:明日菜と部屋で③
どれだけの時間そうしていたんだろうか・・・1分か、5分か、10分かもしれない。
-----------------蝉の声は、いつのまにか止んでいた。
「・・・いいよ。村正になら」
そういいながら顔をこちらに向けて、
じっとこちらを見上げてくる明日菜。
潤んだ瞳には俺が映っている。
明日菜からはいつもと違う、
願うような、祈るような、そんな切なさを感じる。
お互いが微動だにしないまま見つめ合い、
俺の額から頬へと流れた汗の水滴が、
明日菜の首元におちて胸へと流れていく。
ほのかの浮気を知ってからの日々のことがフラッシュバックする。
ほのかのこと、こころちゃんのこと、それと明日菜への気持ち。
ぐるぐると思考が回転する中で、『考えろ冒険野郎』と心の中の俺が必死に言うべきこと、自分自身の気持ちを手繰り寄せ、言うべき事を絞り出す。
「・・・ごめん」
そんな俺の言葉を聞いた明日菜は、目を見開居いた後、じわり、と目尻に水滴を貯め、そしてあはは、と困ったように笑いだす。
「そ、そうだよね、私なんかが、変な事言って」
ごめんね、と無理に笑おうとする明日菜。
そんな様子が痛々しくて、みていられなくて、早口で必死に言葉を続ける。
「違うんだ、聞いてくれ明日菜」
そういって真剣な心持で明日菜の瞳をじっと見つめ返す。
頭の中で考えていることを綺麗に吐きだせるかはわからない。
それでも、自分が思っていることを、きちんと伝えたい。
俺の言葉に、再び驚いた表情をする明日菜。
「-------俺、こころちゃんに好きだって、告白されたんだ」
そう、正直に、伝える。三度驚いた表情をするが、
真っすぐに俺を見つめ返し、俺の言葉をしっかりと聞いてくれる。
「でも俺、今は誰かと付き合うとか、そう言う事が考えられないでいるんだ。
こころちゃんも、明日菜のことも、俺は大切だと思ってる。
けど今は、まだ、付き合うとか、その先とかの、答えが、自分の中で出せない。
そんな中途半端な状態で、ここで明日菜とそういうことをするのは、
・・・明日菜にも、こころちゃんにも、不誠実だと思う」
喉がカラカラで、暑さのせいかあたまもぼーっとするけどとにかく今は自分の気持ちを、精一杯に伝えよう。
「だから私なんかが、なんて言わないでくれ。
明日菜は魅力的で、可愛らしい、女の子だ。
悪いのは答えが出せないでいる俺なんだ。
決して、絶対、明日菜とそう言う事がしたくないわけじゃない。
・・・というか明日菜は可愛いと思うし、ちょっと、かなり、だいぶそういう事がしたいとかいう気持ちはある!
けど中途半端な気持ちではそんな事はしたくない。
雰囲気で流されてそういうことをしたら、
アイツ等と同じだと思うから・・・
俺は誰かとそういうことをするっては、きちんと、誠実でいたいんだ」
後半ちょっと変な事も言ってしまった気がするが気にするな、というか気にしないでくれ。歌は気にするなっていうだろ?それぐらい気にしないでくれ。
そんな俺の必死の様子に、くすり、と小さく笑う明日菜。
「・・・ありがと、それと、ごめんね」
その短い言葉に、明日菜の色々な想いが込められているのを感じる。
「いや、謝るのは俺の方だ。判断が遅いって叱られそうだよ」
「村正ならなんやかんやで呼吸しれっと使えそうだけどね・・・・ところでさ、村正」
「ん?」
「--------ずっと私のおっぱい揉んでる」
「ンッヒョアアアアアアアアアアアアア?!」
驚いたネコチャンのように明日菜から飛びのく。
--------話すのに夢中ですっかり忘れてた!!!
布越しとはいえまるで手のひらと一体になったかのような柔らかさと触り心地、ええい明日菜のおっぱいさんは化け物か?!
「す、すすすすまん!ふかふかすぎて手を放すのを忘れてしまってた!!」
わたふたと弁解をする俺に破顔する明日菜。
「--------あははははは!そういうところだぞ村正ァ」
俺が飛びのいて動けるようになった明日菜が身体を起こし、俺を指さしていつものように笑ってる。
「そっか、こころちゃんも勇気を出したんだね。・・・私も---」
そんな明日菜の呟きが小さく聞こえ、明日菜が俺を視て微笑みながら言ってきた
「ね、村正。今年はみんなで花火大会に行こうよ」




