43.夏休み:明日菜と部屋で②
2階に上がっていくと、
部屋のドアを開いたままなんともいえないもの哀しそうな顔をしている明日菜がいた。
「悪い、とっちらかったままなンだわ」
「おいこら!『ねンだわ』はやめろ村正ァ!」
ははははは・・・と笑いつつ、すまん、と明日菜にどいてもらって部屋に踏み入っていく。
部屋を出てきた時と同じようにスキマノスペース二足を置いて、
一歩音越え、二歩無間、三歩机の前!はい到着ー!
と机の上にお茶を置いた後、さささっとものを左右にどけて明日菜の通り道を作る。
「変な時にきちゃったかな・・・ごめん」
「いや気にしないでくれ、俺が作業にパンクしてただけだしな・・・」
部屋の惨状に申し訳なさそうにしている明日菜にそう声をかける。
そんな俺の言葉に、部屋の中を見回し、んーと腕組みをして考える様子の明日菜。
おいばかやめろ、おまえがその薄着で腕を組むとたわわな果実が圧迫されてとんでもないことになって健全な青少年男子には目の毒・・・眼福だけど!
目の毒なんですってばよ!静まりたまえ!
さぞかし名のある妖刀と見受けたがなぜそのように荒ぶるのか?
・・・おっぱいがえちえちだからだよおのれおのれおのれ!
荒ぶる妖刀を鎮めていると、明日菜がうん、と頷いて言った。
「村正、よければ手伝おうか?」
おっとこれは願ってもない申し出である。
ぶっちゃけた話俺よりも明日菜の方がPC全般について詳しい。
元々俺も明日菜に教えてもらって覚えたクチなので、
俺からしたらPCのソフトウェアもハードウェアも明日菜が師匠といってもいい。
さしずめ東方乳敗マスター明日菜といたところか。
「おおっ、それはありがたいけど・・・いいのか?」
「ヒマしてたからね、ちゃちゃっと組んじゃえば夜には新PCでオンラインプレイできるじゃん。
見せてもらおうか、村正の新しいPCの性能とやらを」
「また敵となるか、明日菜!!」
ああ言えばこう言う、ネタを返されたらネタで返す。
まぁ気心知ったる腐れ縁とでもいうべきか、
こんなやり取りにはやっぱり居心地の良さを感じるのだ。
問題は俺の都牟刈くんが元気にならないかだけがネックである。
そんなのみられたら絶対明日菜に弱みとして話のネタにされちゃう・・・悔しい!
でもビクンビクンはしないよ!
明日菜が作業に加わり、
2人して床に胡坐をかきながらああでもないこうでもないといいつつの作業すること小一時間程、
組み立てはあっという間にすすみ俺の新型PCは見事に完成した。
床に置いたマシンの隣にデュアルディスプレイを接続し、電源をつけたが快適に動いている。
完璧だっっっっ!!
「やったー!すげぇ、さすが明日菜!ありがとうありがとう!」
「ふっふっふ、この明日菜様を褒めよぉ讃えよぉ!」
床に座ったままハイタッチをする。
いやー、無事PCが完成するとテンション爆上げ感動もひとしおだ!
「・・・ともあれ完成して良かったね」
そしてそんな中できっと何気なしにしたのであろう、
にこっという音の出ていそうな明日菜の笑顔に、ドキッとしてしまった。
「?どうした村正」
思わず明日菜に見惚れていると、明日菜が怪訝そうな顔をして首をかしげている。
「あー、すまん、いや、なんでもない」
「そう?・・・あ、ごめん喉乾いたからお茶貰っていい?」
そういって明日菜が立ち上がろうとしたので、それを制する。
「あぁ、俺がとるよ------うわっ」
「きゃっ」
長いこと座っていて急に立とうとしたので痺れた足でバランスを崩した。
同じように立とうとしていた明日菜も足元の配線を踏んで、後ろに向かって滑る。
危ない、と思い明日菜に手を伸ばし、俺の左手が明日菜の右手首をつかんだままの体勢でで、そのまま後ろへと倒れた。
ギシッ、とベッドがきしむ音がする。
立ち上がった後に体勢を崩したものの、幸い頭や腰をうつということはなかったが----
明日菜は勢いのまま仰向けに----俺たちの後ろにあったベッドの上に尻もちをつき、
俺に押し倒されるようになってしまった。
俺は明日菜の手首を掴んだまま----咄嗟につこうとした手はベッドではなく明日菜の胸の上に。
そうして明日菜の上に跨って見下ろしていた。
ベッドの角に膝を当てて、明日菜を組み敷いているような形になっている。
そうして見下ろした瞳の先では、明日菜が驚いて目を見開いていた。
窓の外から、わずかに蝉の声がする。
ききのわるいエアコンがたてる微妙な音がやけに耳に入ってくる。
何かを言おうとするが、この状況で何を言えばいいのかわからず、
頭が固まったまま明日菜の瞳を見ていた。
掌に感じる鼓動が、はやい。
明日菜の顔が、わずかに、朱色に染まり、それから・・・つい、と視線を右に逸らした。
少しだけ、俺の体の下で身を捩って。
「・・・・ん」
そういって、自由な左手を、ゆっくりと肩の位置までベッドの上を滑らせて。
「明日、菜」
何か言わなければ、と思ったがかろうじて明日菜の名前を呼ぶことしかできない。
「村正ぁ・・・」
少し震えるような、それでも愛おしむような、そんな明日菜の声。
・・・サボテンが花をつけている




