SIDE:ほのか
ウオェェェ!!
胃から食道、そして口へとからこみあげてくる感触のままに、
びちゃびちゃと吐しゃ物を便器にまき散らす。
ゲェッ、ゲエッ
胃の中のものをすべて吐き出すまで、その動きは止まらない。
口元の吐しゃ物を手の甲でぬぐい、自嘲する。
ここに引っ越してきたあたりから、ほとんど毎日こんなことの繰り返しだ。
無理やり栄養を口から入れて、暫くしてから吐きだす。
ただそれだけの生活。
好きだった人を裏切って、
当たり前だった毎日も、
描いていた未来も、
何もかも全部なくして、
残ったのは“これ”だけ。
お父さんもお母さんに付き添われて病院に行っていたけれど、
もうどうにかなる3か月をすぎてしまっている、と言われた。
本当は、あんな男のとじゃなく・・・しょうちゃんの・・・正吉君の・・・
そんな事を考えると、とめどなく涙があふれてくる。
「馬鹿だ・・・私・・・何やってるんだろう・・・」
誰か教えてよ・・・私はあと何回吐けばいい?
私はあと何回、過去を夢見て未来を悲観すればいい?
誰も私に何も言ってくれない…教えてよ、誰か
そうして吐しゃ物まみれの便器から顔をだすと、髪にも吐しゃ物がついていた。
-----------自慢の髪、だったんだけどなぁ。
そういえば昔、しょうちゃんが髪を褒めてくれたのを思い出した。
『黒くてきれいな髪だよな』
何気ない一言だったかもしれないけれど、
本当にうれしくって、髪の毛の手入れ、欠かさなかったなぁ。
・・・一年前までは。
本当に、何やってるんだろう。
汚物まみれになった髪を洗わなきゃと、のそのそとお風呂場に移動する。
途中、お母さんが心配そうに声をかけてきたけれど、大丈夫とだけ声をかけた。
お風呂場で裸になると、鏡に映った自分の下腹は少しだけ大きくなっていた。
数か月後の事を考えると、喜べばいいのか、悲しめばいいのか、なんともいえない気持ちになる。
どうして、どうして、ドウシテ----------------
そんな事を考えていると、ふら、ふらふらと意識が遠くなっていくような感覚がした。
いけない、と思い地面に膝をつき、両手で体を支える。
「おか、おかあさ・・・」
助けを呼ぶ声を絞り出すのと、眠りに落ちるように意識を手放すのとは同時だった。




