37.夏休み:花言葉
「わぁ・・・すごい、ひまわりがいっぱいだよう」
丘の向こうまで黄色い絨毯に、こころちゃんが声を上げた。
太陽のまっすぐな日差しと、夏の匂いを全身に感じる。
気づけば繋いでいた手が離されて、少しだけ歩調を早めたこころちゃんが、
俺の少し先を歩いていく。
人の背丈ほどあるひまわりの中に作られている砂利道を、
一歩一歩転ばないように進んでいくったこころちゃんがくるりとこちらを振り返る。
この華奢な手足で何度も助けてくれた。
勇気を振り絞って背中を押してもらった。
子供のころから変わらないこころちゃんの優しさは、
この夏の日差しよりも輝いていて、ひまわりよりもきっと、眩しいものだ。
「---------しょうきちくん」
ひまわりの道の先、少しだけ開けた場所で、こころちゃんが目をきらきらさせていた。
「とってもきれいだね!」
両手を広げて、満面の笑みで、にこっと笑うこころちゃん。
「うん、そうだね。」
その笑顔はいつだって俺を真っすぐだった。
そんなこころちゃんをみていると、とても暖かな気持ちになる。
「ありがとう、こころちゃん」
ほとんど無意識に-------気が付いたら言葉が出ていた。
突然の言葉に、こころちゃんは驚いた後、困ったような笑顔になった。
「急にどうしたのしょうきちくん」
「・・・んうん、どうしたんだろうね」
そういいながらくすくすと笑っているこころちゃんに、つられて俺も笑いだす。
そうして2人で笑い合った後、こころちゃんが少しだけ下を向いた。
ぎゅう、とワンピースの裾を両手でつかんだ後、呼吸を整えて改めて俺に向き直る。
「あの、あのね・・・しょうきちくん」
いつになく真剣な様子のこころちゃんに、思わず俺も緊張してしまう。
「私、・・・しょうきちくんの事が好きです」
耳の先まで真っ赤に染めて、それでも真っすぐに俺を見つめている。
「小学生の頃、いつも、いっぱいいっぱい話しかけてきてくれて嬉しかった。
一緒にうさぎさんたちの当番をしてくれたことも嬉しかった。
いじめられているのを助けてくれて、嬉しかった
お別れの日にうさぎさんの髪飾りをプレゼントしてくれたのも、すごく、すごく、うれしくて、お別れなんてしたくないって思って、
その時からずっと、じゃない、きっともっと前から、いつも楽しそうに話しかけてくれるしょうきち君が、一人で居た私を一人じゃなくしてくれたときから、ずっと----いつも楽しくて、お調子者で、でも優しい・・・ぽかぽかの太陽みたいなしょうきちくんの事が、大好きです」
たどたどしい言葉で、途中からぽろぽろと涙を零しながら、それでも精一杯に気持ちを伝えてくれるこころちゃん。
そんなこころちゃんの様子に、俺も目頭が熱くなり、うるんでくる。
「----しょうきちくん」
何かを言わなければ、と思わず言葉にしようとするが、ころちゃんの言葉でさえぎられる。
「ごめんね。
しょうきちくんが、傷ついて、心が疲れちゃってる時に、こんな事をいうのは、やっぱり、ずるいね。
だから・・・これからたくさん楽しい毎日が過ぎて、
また、誰かを好きになったその時に、しょうきちくんの隣にいれたら、嬉しいです」
きっと勇気を振り絞った、こころちゃんの精一杯の告白。
「ありがとう、こころちゃん。
俺を好きって言ってくれて。
--------わかった。いつか、また誰かを好きになったその時に、きっと、必ず、返事をするよ。だから・・・待っててくれる?」
俺のそんな答えに、「うんっ・・・!」とこたえてくれたこころちゃんの笑顔は、
今まで見たどんなこころちゃんの笑顔よりも魅力的で、素敵だった。
俺を好きだと言ってくれたこころちゃんに、俺もいずれ誠意をもって返事をしよう、と思う。
その後、こころちゃんの顔をハンカチできれいにして(こころちゃんは恥ずかしがって自分でできるよう、とむくれてしまったりしたが)、ひまわりの丘を手を繋いで散歩した。
小学生の時のこと、再会してからの事、思い出はおっくせんまん。
帰る前にゴリラの檻を通ったらクソゴリラが『お前まさかこころちゃん振ったのか?!こんな子に告られて日和る奴いる?いねーよぇよなぁ!?』って顔芸してきたので『黙ってろ童貞ゴリラ』と顔芸で返しておく。
ハムスターやモルモットーたちも一列に並んで俺たちを見送って・・・いや、こころちゃんを心配していた。
そんな小動物たちに心ちゃんは手を振り、俺達は帰路についた。
あ、きちんとこころちゃんは家まで送ったよ。
こころちゃんの家は・・・びっくりするほどデカい日本屋敷でした。
ヒェッ・・・。




