33.親
「つまりそれは一年間も浮気されていて、
処女なんてとっくの昔に他の男に散らされてる事も知らず、
彼氏だと思って付き合っていた俺の間抜けさが悪いという事ですね」
無表情に淡々と告げる。
あまりにも不躾な物言いにほのかのお父さんとお母さんが言葉を詰まらせて固まる。
「い、いや、それは・・・ち、違」
「違わないでしょ。
そう思ってるからそんな事を言ったんでしょ。
そんな事を言えたんでしょう?
まぁ確かにほのかに甘い顔ばかりしていたしドタキャンされても疑わなかった俺にも非がありますけどね、そもそも浮気するような女に育てたあんたらの----------」
そこまで言ったところで、俺の口がふさがれた。
俺の顔にぐるりと後ろから腕を回して、手のひらで俺の口を噤ませる。
それは、父さんの手だった。
「---------そこまでだ正吉」
父さんの言葉と動きに、安堵したかのようなほのかのお父さんとお母さん。
「----------------ここから先はお前の親である、俺のターンだ」
底冷えするような親父の声。
父さんはいつも物静かだったり、
カードを人差し指と中指で挟んで高笑いしたりすることはあったけれども・・・
こんな冷たい声が出せる人だというイメージはなかった。
「せ、世渡・・・」
ほのかのお父さんが、父さんの様子に驚いたように声を上げる。
「黙れ凡骨ゥッ!」
「ぼ、ぼんこ・・?!」
父さんの怒声に怯むほのかのお父さんと。
「貴様など最早名を呼ぶ価値もない。凡骨で十分だ!」
「せ、世渡くん・・・お、怒らないで話しましょう?」
ほのかのお母さんが、父さんの剣幕に怯んだほのかのお父さんをかばう様に父さんの名前を呼ぶ。だが--------
「--------ええい、気安く俺の名前を呼ぶな!
それに怒らないでだと?俺はすでにキレているわ!!
子供の在り方というものは、親が何を教えてどう育てたかによるのだ!
人として当たり前のことを教えもせず、
あろうことか自分の子供の不始末を他人の子供に背負わせるなど----親として恥を知れ!!」
父さんの言葉に、ほのかのお父さんとお母さんが言い返せずに言葉を失っている。
「そもそもだ、子供ともっとも一緒にいるのは親であるお前たちだ。
そのお前たちこそが、本来子供の異変に気付くべきだ。
それを、自分たちができなかった事を棚に上げ、
人様の子供を、俺の息子を責めることなど・・・断じて俺が許さん!!」
うちの父さんはこんなに声高に激昂できる人だったのか、
と思いつつも、俺の言いたいことを次々と言ってくれる。
なにより、父さんが言ってくれることが、
俺のことで怒ってくれる事が素直に嬉しかった。
「お前たちは最近自分の子供に何か変わったところが無かったかと全く気付かなかったのか?
毎日顔を合わせて本当に、
何一つ違和感を感じなかったのか!?どうだ凡骨!」
そんな父さんの言葉に、ほのかのお父さんが「そんな事を俺達に言われても・・・」と口ごもる。
「そんな事を俺達にいわれても?何だ言ってみろ」
父さんの剣幕に、頭を下げて俯くほのかのお父さん。
-------------ほのかが髪を金髪に染めてギャルになったとき。
この2人はいったいなにをしていたのだろうか?
「子供の様子をよく見て声をかけ、
誤ったことをしていればきちんと叱り教えるのが人の親だ。
褒める、甘やかすだけではない。
------------物の道理を教えるのも親の務めだ!
お前たちはそれをしたのか?
親の責務を全うした上で俺の息子を責めたのか?
答えろ。
どうした顔をあげろ俯いて黙っていては何もわからん。
どうした?口を開け。何か言って見せろ凡骨。
-------------そもそもお前たちは自分の子供を叱ったことがあるのか?」
圧倒的な怒りの父さんの言葉に、
何かを言い返そうとするが言い返せず口ごもるほのかのお父さんとお母さん。
思い当ることがあるのだろう---------ありすぎるのだろう。
「そもそもお前たちが子供の異変に気付いて声をかければ、
何かをしていれば、こんな事にならなかった!違うか凡骨?!」
父さんの剣幕と勢いと言葉に呑まれ、
完全に委縮しているほのかのお父さん。
父さんの言葉に対してほのかのお母さんは何かを言おうと、
口を挟もうと口を開こうとしていたが、父
さんの次の言葉に遮られ、
そしてぐうの音も言えずに最終的には下を見て俯いていた。
「お前たちとは長い付き合いだったが、ハッキリと断言してやる。
お前たちよりも、俺は俺の息子の方が万倍、億倍、京倍大切だ。
どこへともなりとも消え失せて、
二度と俺たち親子の前にその顔を見せるな!!
-------------貴様等の所為で俺の息子が傷ついたわ!!」
その口撃は、滅びのなんとかストリームとやらの如く。
父さんの逆鱗触れたほのかのお父さんとお母さんは、追い出されるようにしてうちの家を出た。
ほのかのお父さんは最後、何かを父さんに言いたそうだったが、父さんはドアを閉める間際、
「お前がするべきことは、お前の娘に向き合う事だ。------------フン」
そう言って、ドアを閉めて、鍵をかけた。
ドアを閉めて振り返った父さんの顔はすごく疲れていたけれど、それでも言わずにはいられなかった。
「父さん、ありがとう。俺の代わりに怒ってくれて」
「-------フッ、たまには父親らしいことをしないとヴァルハラの母さんに叱られてしまうからな」
・・・俺は両親に恵まれたな、と、そう思う。
「そうだ正吉、折角だからパパかっこいい!とか言って褒めてくれても構わんぞ」
「ありがとうパパかっこいい大好き!
セイバークラスっぽいイケボなところもイカしてる!」
即答してやったぜ、へへへ。
「むぅ。・・・本当に言われると照れるな」
そう言って照れている父さん。
・・・俺はやっぱり両親に恵まれたな、とそう思った!
「しかし当方が竜殺しの宝具を持っている事は母さんから聞いていたとはな」
「えっ?」
「えっ?」
無言で父さんと見つめ合うと、ツイッと眼鏡の位置を直して返してきた。
「冗談だ」
・・・本当に冗談だよね?ははは、そんなまさかね。




