32.
「やぁ、正吉君・・・久しぶりだね」
そう言って、目の下にクマをつくり、
やつれた様子のほのかのお父さんと、同じような様相をしたほのかのお母さんがいた
そんな声に気づいたのか、リビングからは父さんが出てきていた。
「・・・世渡、お前もいたのか、それはちょうど良かった。こうして顔を合わせるのは、木在が亡くなって以来だな」
「・・・あぁ。まぁ、玄関で立ち話もなんだ、上がってくれ」
そう言って2人をリビングに通す父さん。
2人を座らせて、父さんがお茶を淹れて出していた。
リビングでは、俺と父さん、そしてほのかのお父さんとお母さんという珍しい4人で、
対面して座ることになった。
「今回のことでは、正吉君にも、色々と迷惑をかけてしまったね・・・すまない」
「・・・いえ、頭を上げてください」
そう言って頭を下げるほのかのお父さん。
「ほのかは、まだ入院しているわ。
身体は大丈夫なんだけれど、心が疲れてしまっていて・・・。
・・・色々と警察の人たちが話を聞きにきていたけれど、
今は落ち着いているわ」
そうか、ほのかは入院しているのか。
・・・やっぱりなんともいえない複雑な気持ちになる。
「それで、こんな事になってしまったのもあるし、ほのか自身もあんな状態だ。
私たちは、静かに・・・静養できるところに引っ越そうと思うんだ。
勿論学校にはいられない・・・退学の処分は受けたけれども、
幸い、ほのかも大きな罪に問われることは無かった。
・・・ありがたいことと言っていいのかはわからないけどね。
それで、今日はその挨拶にお邪魔したんだ」
「・・・そうか。」
ほのかのお母さんとお父さんの言葉に、そう言って頷く父さん。
「でも本当に残念だよ。
ほのかは家ではいつも正吉君のことを話していたし、
子供のころからずっと一緒にいたからね・・・。
私は、いずれほのかと正吉君が一緒になると思っていたんだよ」
ほのかのお父さんの言葉が、胸に刺さる。
それは痛みではなく、不快感として。
---------それを裏切ったのはほのかだ。
「本当に。
・・・私も、ほのかがまさかあんなことを起こすなんて思ってもいなかったわ」
まただ。無意識に、奥歯を噛みしめる。
何だ?何が言いたいんだこの人--------いや、コイツらは。
しかし何をどう言い返せばいいのかうまく言葉にできず、黙る。
それをどう思ったのか、ほのかのお父さんがさらに続ける。
「・・・正吉君がもっとほのかのことを見てくれていれば、
こんな事にならなかったかもしれないと思ってしまうよ」
--------------その瞬間、俺は確かに聞いた。
堪忍袋の緒が、ブチ切れる音を。
 




