28.末路
俺と多羅篠の間に割って入っているのは、スーツ姿の美女の姿をしたテツくん。
その腹部にガラス片を刺されている。
目を閉じ、俺にもたれかかるようにして崩れるテツ君を抱きしめ、声をかける。
「テツくん、テツくん!」
震える声でテツくんに話しかけるが返事はない。明日菜も俺の後ろで、テツくん・・・と声を震わせている。
「ギャハハハハ!ざまぁみろ一人ぶっ殺してやったぞ死ねしねくたばれやぁこのド低能のゴミカス共がよぉ!!」
数歩下がって、中指を立てながら俺たちの様子に高笑いをする多羅篠。
「多羅篠・・・てめぇ・・・!!」
「ギャハハハハ、次はお前だぜしょうちゃんクンッ!!」
もう一つのガラス片を俺に突き出そうとする多羅篠。
「ギャハハ、ハググゥアッ!!」
突然、多羅篠が足をもつれさせて倒れ込む。
-----------まるで何かが体内で爆発でもした痛みでもあったかのように。
そして、その際に握りしめていたガラス片が、その股間に深々と突き刺さっており、
多羅篠の股間を赤く染めた。
「ギャアアアアアアッ!、おっ、おれのチッ、ンッッ、ポにいっ!!」
股間に赤い染みを作り、床を転げまわる多羅篠。
『---で、俺のスパイクは技の前に杭のように闘気を集めておくんです。
それを拳が当たる瞬間に相手に打ち込んで、闘気を解放することでそれを内部から炸裂させます。
なので拳が当たった後の時間差で相手に追加ダメージを与えることが出来るんです』
いつぞやキョウスケ君にスパイクを教えられた時の事を思い出す。
そういえばさっき多羅篠を滅多打ちにするときに、
半分無意識だったがうすぼんやりとそんな事をやった気がする。
いつかどこかで役に立つかもしれないから、じゃない。
最後の最後で命を助けてもらったよ、ありがとうキョウスケ君。
「う、ううっ、ヘェェイイイイイイ、ああぁぁんまりだぁぁぁぁっ!!
あへぇ、あへええっ、ウギャアア、おれのぉぉぉぉ、チン、ポがぁぁぁぁっ」
地面を血で真っ赤に染めながらのたうちまわっていた多羅篠が、よろよろと立ち上がってと逃げ出そうとする。
「あっ、待てこの」
声をかけると同時に、入り口を破って黒服角刈りサングラス黒スーツの集団が一斉に突入してきた。
まもねーちゃんが「SPの皆さん!」と声をかけている。
あれはまもねーちゃんが呼んだ増援なのか!
「ぢぐしょぉ、ぢぐしょお、俺はにげるんだぁっ、もっど、もっど女を抱くんだぁっ」
泣きながら逃げる多羅篠の身体が、時折ビクン、ビクンと、はねる。
遠目に見ていると随分と滑稽な動きだ。
さっき打ち込んだキョウスケ君直伝のスパイクが体内で爆ぜるギウスしてるのだろう。
・・・あのクソモンス本当厄介だったな、BGMはかっこよかったけどさ。
黒服たちから逃げるように窓辺に寄った多羅篠の身体が一段と大きく跳ねると、
体勢を崩して窓から落下していくのが見えた。
途中何かにぶつかったのか、ゴンッという音が聞こえた。
落下中にマリアさんに祈っていたら頭でもぶつけたのかな?
パパラパーデンッというCMアイキャッチの音が空耳する。
「・・・あれ、終わりましたか?」
と腕の中のテツくんが目を開けた。
「テツくん?!」
俺も、明日菜も声を上げる。
「良かった、村正くん無事でしたか」
「うっ、うううう、テツくん!無茶しやがってー!!」
そういってテツくん抱き着くと、スーツの前をはだけてそこからスッ、と分厚いものを取り出した。
「週刊少年ジャプンです。こんなこともあろうかと、
万が一に備えて仕込んでおきました」
--------------本当にすごいなテツくん?!
「何かあるといけないのでまた気配を隠していたんです。やりましたね」
そういってぶいっ、と指でVの字を作るテツくん。パパラパーデンッといいなんだかVに縁がある一日だなぁ・・・とふっと思ってしまう位には、気が抜けている。
そんな俺たちに、黒服たちが駆け寄ってきて俺たちの様子を確認し、迅速に救急車を手配していた。そんなこんなで多羅篠の魔の手から明日菜を救出した俺たちは、病院に運ばれたり、警察に事情聴取されたりすることになったのだった。




