SIDこころ:こころのココロ(後)
------そうして、おじいちゃんおばあちゃんのところに引っ越してからの私は、
おじいちゃんの勧めで体を鍛えだした。
・・・時々おじいちゃんに連れられて怪しい人たちと戦ったりもしたりして。
生憎、体格に恵まれなかったけれども、
おじいちゃんから気の流れのコントロールについて教えられて、
熱量で体格を大きくすることができるようになった。
そこからの16年間は、身体を鍛えて、カロリーを蓄えての生活。
小学生の頃に住んでいた町に戻って高校生活を送ることになったとき、
同じ高校にあの時の男の子----正吉君がいて、嬉しかった。
今度は、私は正吉君を助けてあげるんだ、と息まいたりして、
悪い人をやっつけたり、
誰かを助けようとする正吉君を助けたりして高校一年生の生活はあっという間に終わった。
そんな事をしていたら私の周りにはなぜかモヒカン頭の人たちが集まってくるようになったりしたけれど、今では皆仲良しのお友達。
あの頃と同じで、いつも元気で、時々ちょっとおかしなことを言って、
それでいて人にやさしい男の子は、私にとってずっとヒーローだった。
正吉君の事を考えると、ドキドキする。
ずっと、それが何なのか考えてこなかったけれども----
小学生の頃からずっと、今はもっと、私は正吉君が好きなんだ。
好きな子のためなら頑張れる、
なんておじいちゃんがいっていたけれど、今ならその言葉の意味が解る。
ここで私が負けたら、正吉君達が取り返しのつかないことになってしまう。
だから、絶対に負けられない。
今度は私が、正吉君を助ける番なんだ。
16年間かけた全部を、ここで、使い切ってもいいから。
--------------------意識が戻ってくる
ヒグマさんのパンチをガードして、ヒグマさんの頭を思い切りパンチする。
少し、わずかに少しだけだけれど、ヒグマさんの頭がぶれた。
・・・効いてる?
色々なところを攻撃して効いている様子がなかったけれど、
頭だけはわずかに効いてきた気がする。
うまく言えないけれど、頭へのダメージが限界を越えたような感触があった。
誰かが予め、何度も頭に攻撃をしていてくれたみたいな。
このヒグマさんを倒すことが出来るとしたらここしかない。
ありったけを・・・!
逃がさないように、左腕でヒグマさんの右腕を掴む。
「沖縄、九州、四国、中国、近畿・・・」
呟きながら、身体の熱量を溶かして、右腕に全部を込める。
「こころちゃん?!何しようとしてるの!?」
正吉君の声が聞こえる。
正吉君の方を向いてにこっと笑う。
---------大丈夫だよ、と。
「中部、関東、東北、北海道」
ここで私が何かをしようとしているのか、
ヒグマさんがはじめて、私から逃れようと必死に攻撃をしてくる。
左腕で、両足で、頭突きで。
でも、ここで引くわけにはいかない。
身体が溶けてなくなっていくような感覚を感じて、
身体から蒸気のような湯気のようなものが立ち込めている。
どんどんど右腕だけが大きくなっていく、
というよりも、全ての力を右腕に集めて、
蓄えてきたものを全部、燃やしているんだ--------
「ハ・・・ナセ・・・!」
はじめてヒグマさんが喋った。でも、もう遅い。
「-----恋はいつだって、命懸け!!!」
この人は私がここでやっつけちゃうから、
だからこの先は、正吉君の番。
フレーフレー、正吉君。がんばれがんばれ、正吉君!
「日本全国拳!!」
体中から立ち込める蒸気で、あたりが何も見えない。
けれど、この全力の一撃だけは、外さないよ!!
ヒグマさんが悲鳴をあげたようだけれど、
声を上げるよりも先に私の拳が顔にめりこむ。
色々なものが砕ける感触の瞬間、掴んでいた左腕を離す。
声にならない声をあげながら、ヒグマさんが吹き飛ばされ、地面を転がり、そして反対側の壁を突き破って、ビルの外まで吹き飛んでいった。
そのまま落下していき、地面に激突する音が聞こえた-----やったよ、勝ったよ正吉君。
でも、もう頭がくらくらして、立っているのが精いっぱいで。
正吉君がかっこよく勝つところは見れないみたい。
だからせめて、と、細くなった両足で地面を踏みしめて、
右腕を思い切り上に突き上げる。
勝利の宣言だと、頑張って笑いながら。
次は正吉君の番だよ--------、とそんな思い込めて。




