5.
ファミレスのテーブルで向かい合ったまま、お互い言葉なく項垂れていた俺と明日菜。
-------------------ほのかとは16年、ずっと一緒にいた。
俺が言葉もだせずにいるのは彼氏だからだが、明日菜もほのかとは親しい友人だから思う所はあるのだろう。
明日菜が頼んでくれたドリンクバーとフライドポテトとピザは手を着けられることなくテーブルの上を飾っている。
「お待たせしました」
突然の物静かな声に「うぉわっ!」と隣を見るとテツくんがちょこんと座っていた。
ちらり、と壁にかけられた時計をみるとあれから2時間近くたっている。
もうそんなに時間がたっていたのか・・・。
「村正君にはつらいかもしれませんが、藤島さんとあの男性との一部始終を写真に撮ってきました」
そういってカメラをテーブルの上に置くテツくん。
「・・・とはいえこれを村正君に見せていいのかは、正直悩んでいます。僕も、ショックでした」
その言葉に、俺はこの間ショッピングモールでみた光景も見間違いじゃなかったんだな、と理解してしまう。
そんな俺を見上げながら、心配そうな顔をするテツくん。
「ありがとう、テツくん。それと、変な事させて・・・・嫌な気分にさせちゃってごめんな」
そういってテツくんに頭を下げる。
理由はどうあれ、テツくんには嫌な思いをさせてしまった。このカメラの中に入っている出来事を、テツくんは直接みたのだから。
「いえ、僕は平気です。それよりも村正君こそ大丈夫ですか?」
そう、俺の顔をじっと覗き込んでくるテツくんに、「大丈夫だよ、それと、手伝ってくれてありがとうテツくん」とお礼を言う。笑いながら言ったつもりだが、どうにも元気がなくていつものように笑えない。
「はわわ・・・ムラテツ・・・いや、これはテツムラ・・・?!」と明日菜がよくわからない言葉を呟きながら、口元に手を当ててキラキラした瞳ではわわ・・としている。
こんなリアクションとるのは見たことがないが、なんとなく、触れるな危険なと本能が叫んでいるので触れないでおこう。
「明日菜、テツくん。・・・俺、見るよ」
そういって覚悟を決めてカメラを受け取り、撮られた写真を見ていく。
それは、腕を組み、仲睦まじく歩いていく、ほのかと男の姿からはじまっていた。
物陰でキスをするほのかと男。
商店街のはずれのさびれたラブホテルに入っていくほのかと男。
そこからしばらくしてホテルから出てくるほのかと男。
腕を組みタクシーにのりこむほのかと男。
テツくんが撮ってきてくれた写真はどれも鮮明で、
完全にそれがほのかだとわかるものばかりだ。
「浮気、かぁ・・・」
受け取ったカメラをテツくんに返した後、ソファーにもたれかかるようにして脱力する。
浮気、というよりもこれは寝取られだろう。
なぜなら俺はキスまでしかしたことはない。
この男とほのかがしてきたように、ラブホテルに入って男女がするようなことはしたことがないからだ。
俺はこのイケメンに愛する恋人を、幼馴染を、藤島ほのかを-----寝取られていたのだ。
そんな俺の姿を、明日菜が心配そうな顔で見ている。
ごめん、お前にそんな顔させたくなかったんだけどな。
「わかりました。では、この写真を学校中にバラまきますか?」
隣から、涼しい顔でとんでもないことを言うテツくんの言葉に「えええ?!」と思わず飛び起きる。元気はないし落ち込んでいるけどエキセントリックすぎる発言に無理やり気力を絞り出されたように。
いつもと変わらない表情でとんでもないこと言うなぁテツくん!
「冗談です。・・・元気はでましたか?」
冗談でも真顔で言うからちょっと本気かと思ってびっくりするよ。
「僕は写真は撮りましたが、これからどうするか、そしてこれをどう使うかは、恋人同士である村正くんが決めるべきだと思います。勿論、何かあったら僕は村正君の友達だから僕に出来る事は何でもするつもりです」
そう言って俺をじっと、澄んだ瞳で見てくるテツくん。
「・・・ありがとな、テツくん」
「はわわわわわい、いまなんでもしゅるって・・・でもこれはムラテツ・・・これはムラテツね」
相変わらずなんか妙な反応をする明日菜はとりあえずおいておくとして、テツくんがカメラから抜き出して渡してくれたSDカードを受け取る。
「あ、食べないと勿体無いのでとりあえずいただきますね」
そういって手を拭いた後にもそもそとポテトを食べ始めるテツくんの様子に、はははっ、と笑う。
小柄で、華奢で、メガクレで、女の子みたいに見える顔立ちなのに、極太の肝っ玉にいつでもマイペースで時々男前。
色々と尊敬するところばかりの、すごい友達だなぁ、と思わず笑みがこぼれた。
ほのかが寝取られたことはしんどいし、今でも心の中がぐちゃぐちゃになっているけど、テツくんや、なんか妙にクネクネしてる明日菜がいて気が紛れて助かった。
「?・・・村正君も食べますか?」
そういってちょっと長めのポテトを差し出してくるテツくん。
「あーん?!あーんなの???はわ、はわわわわ!」
いや普通に受け取って食べるって。