24.
暫くしてサイドカーつきのバイクでかけつけてくれた村雨の友人にのせてもらい、
隣町まで移動する。
あらゆる裏道を走り、時には道なき道を行き、
凄い運転技術であっという間に多羅篠のビルが視える小高い丘まで移動できた。
バイクで一旦停止して見下ろすと、ビルの周囲の平地ではモヒカンたちや剣道部の皆が戦っている。
「ふむ----村正、おまえは上から直接乗り込め」
そういう村雨に、どうやって?と聞くと村雨がビルの屋上をなぞるように指さしていく。
「このまま丘伝いに駆け下りて手近なビルの屋上へ飛び移る。
そこから屋上から屋上への異動を繰り返していけば多羅篠のビルの隣まではいけるから、そこから多羅篠のビルに飛び込め」
「最後、落ちたら死ぬじゃん」
「お前なら大丈夫だ」
-------うへぇ。でも確かにそれが一番早そうである。
平地ではモヒカンたちや剣道部の皆が多羅篠の部下たちとやり合ってるからそれが一番手っ取り早そうである。
「気合を入れろ、お前を送った後で俺たちは地上に降りて他の連中と合流する。
これだけの人数が出払っているという事は本丸は手薄なはずだ
-----------よほどのことがない限り大丈夫だろう」
こういう時野余程の事ってのは起きる気がするんだけどなぁ!
でも背に腹は代えられない。
乗るしかない、このビッグウェーブに。
「それじゃ行ってくる・・・うおおおお!」
あっという間に隣のビルの屋上についたので、そこから
助走をつけて多羅篠のビルへ跳躍する。
すぐに俺たちも行く、という村雨の声を聴きながらガラスを割って飛び込んだら、明日菜の声が聞こえた。
「--------呼んだか明日菜ァ!」
ちょうどいいところに飛び込んだみたいだな、日ごろの行いの玉藻の前ってね。
後ろには明日菜とまもねーちゃん・・・いやなんでこんな所にねーちゃんがいるんだ?という疑問はさておき、前には多羅篠とほのか。
「よう、多羅篠。------お前の罪を数えろ」
そう言って多羅篠を指さし、睨む。
驚いた様子の多羅篠だが、落ち着いたのか、こちらを挑発するように嘲ってくる。
「今更覚えてねぇよ!-----こんなところまでご苦労様だなぁ、負け犬君」
しょうちゃんを悪く言わないで、と多羅篠に食って掛かるが、多羅篠にキスをされればとろんとした顔で押し黙る。
・・・前だったら深く傷ついていただろうけど、今ではそれを見ても何も感じない。
・・・ほのかの事、吹っ切れたんだろうな。
「悪いが2人は返してもらうぜ」
「アァ?明日菜ちゃんと爆乳ちゃんは俺のモンだぞ負け犬ゥ!」
下半身をパンパンに膨らませながら中指を立ててくる。
言う事も態度も最低だな、顔はいいかもしれないが中身が最低だよ。
そんな男に引っかかるなんてな----------とほのかを一瞥する。
「そうかい、それじゃぁ負け犬らしくいただいていくぜ」
そう言って踵を返し、2人の方へ走って一緒に逃げようとする。
「やれヒグマァ!」
物陰から飛び出してきたデカい何かの突進を喰らって吹き飛ばされる。
防御が間に合ってなければワンパンだぞこんなの・・・いてて。
「村正ァ!・・・しっかりしろ村正ァ!」
ごろごろと地面を転がっていく俺のところに明日菜とまもねーちゃん。
2人とも心配してくれるが、ダメージが大きすぎて立ち上がるまでに時間がかかりそうだ。
「グェッ・・・やってくれたな畜生」
2人に助け起こされながら多羅篠と巨漢を視る。
デカいし、筋肉もすごい・・・化け物かよ。
「ギャハハだっせぇ、格好つけて出てきて秒殺とか負け犬ムードじゃねえが、ええ?
こいつはヒグマ。俺の最強の護衛だよ。
--さぁ、そいつを下にいたグラサンみたいにグチャグチャにのしちまいなぁ・・・!」
そういう多羅篠の声に頷き、こちらに歩いてくるヒグマ。
「あらあら、お楽しみの真っ最中ですか多羅篠様」
突然の声にヒグマを含めた一同が足を止める。
声がした方にはいつの間にか、眼鏡でスーツの美女がいた。
ロールのかかった桜色の髪をまとめて左肩に流しているその美女は、
チラリ、と俺と目を合わせた後で多羅篠の方に向き直った。
・・・ん、何であの人今俺の方視たんだ?
どこかで会ったことあったっけ。
あんな美女見かけたら忘れないと思うんだけどなぁ。
「何だお前?えらくいい女だが・・・あぁ、部下から報告があった俺と取引したいって言っていた女か」
「はい、そうですわ。わたくし、古谷野やすかと申します。以後お見知りおきを」
そう言いながら多羅篠に歩いていく古谷野と名乗った美女。
・・・そう言えばあのひと、急に現れたけど今までどこにいたんだ?
ん?
・・・んん?あれ?
「へぇ、話に聞くよりいい女じゃないか。胸はないが顔がいい。・・・いいぜ、なんでも買ってやるよ。何を売ってるんだ?-----その代わりヤらせろよ」
突然現れた美女に鼻の下を伸ばす多羅篠。
その緊張感のなさは、ヒグマへの信頼感だろうか。
「はい、では-----------貴方に喧嘩を売ります」
鈴が鳴るような可愛らしい女の声が、途端に聞き馴染んだ少年の声になる。
あ!
ああ!
そのまま多羅篠の股間にバチバチッとスタンガンを押し当てた。
うええ、痛そう。
「何っ---おまっ、お、とこ・・・?!」
痛みにもんどりううって膝をつく多羅篠と、
それを起こそうとするほのか。
こちらを振り返ったその顔は、確かに美女のそれだが-----メイクでわかりにくいものの、その顔はよく見知った顔だ。普段は片方が髪で隠れているけれど。
「「「テツくん!!」」」
俺と明日菜と、-------それとほのかの声が重なった。
「はい、僕です。潜入するのがギリギリになりましたが、間に合ってよかった」
--------そう言ってこちらにウインクするテツくんだが、
今の君はとびっきりの美女なのでドキッとするからそういうのは危険だぜ




