SIDE明日菜:対峙
「うーん・・・」
目を覚ますと、背もたれつきのイスに縛り付けられていた。
観ると、ビルのフロアか何かだろうか?
他に誰もいないけれど、
撮影機材みたいなものが色々とおかれているのでロクでもないことをしようとしていたんだろうと思う。
みる感じ身体に何かされたわけではなさそうだけど・・・。
「井上さん!」
そう言ってこちらに駆けてくるのは、教育実習生の知立先生だ。
どうして?
「あなたが攫われたと聞いて、お兄さんと一緒に助けに来たの。
正吉くんも向かっているみたいだけれど、とにかくはやくここから逃げましょう」
兄貴がここに?・・・なんだ、兄貴らしいところあるんだ。
っていうかなんで兄貴と知立先生が一緒にいるんだろう・・・まるで意味が解らんぞ!
知立先生が縛られているのを解いてくれてたので、自由になる。
「どこに行くの、明日菜」
薄暗闇から、カツカツと足音を立てて歩いてきたのは、ほのかだった。
「駄目だよ逃げちゃ。
明日菜はこれからここでよしくんの女になるんだから」
「-------何を言ってるのほのか」
「明日菜が悪いんだよ。
しょうちゃんに色目なんて使うから。
・・・しょうちゃんは私のものなのに」
そういうほのかの表情は無表情で、不気味だ。
けれど、怯むわけにはいかない。
「--------村正はもうほのかの彼氏じゃない。
ほのかにそんな事をいう権利はないよ」
私の言葉に、怒りで顔をゆがめるほのか。
「ちがう!しょうちゃんは明日菜に騙されてるんだ!
誑かされてるんだ!
明日菜がいなくなればまた私のところに帰ってくるんだ!!
全部全部明日菜のせいなんだ!」
そういって金切声を上げる。
・・・自分は悪くないというような、言い訳にもならないような屁理屈。
「違う!
村正はほのかに浮気されて、悩んで苦しんだ。
だから悪いのはほのか。
あんたに甘かった村正にも悪いところはあるけど、
それでもやっぱりあんたが悪いよ」
そういいながら、頭を抱えて叫ぶほのかの前まで歩いていく。
-----------知立先生が止めようとしたけれども、大丈夫、と頷いて。
「あんたは反省したって言いながら、結局自分に甘ったれてこんな事をしでかした。
この騒動はあんたが悪いよほのか」
「・・・したり顔で偉そうなこと、言わないでよ!!私は悪くない!!」
パァン
思い切りほのかの頬を叩く。
「何回でも言うけど、今起きてる事はあんたが悪い。
-------いつまでも、誰もがあんたを許してくれるわけじゃないよ。
だって私たちはいつまでも自分に甘いままの子供じゃいられないんだから」
「ぶった・・・ぶった!パパにも、ママにも、しょうちゃんにもぶたれたことないのに!」
パァン!!
1回目よりさらに大きく頬を叩く。
「痛い・・・いたい!何するのよぉ!!」
「そ。良かったわね、殴られもしないで一人前になるやつはいないらしいよ。
ちなみに一回目は私を誘拐しようとしたことに加担したことへの落とし前。
二回目は利子」
「わけわかんない。
訴えてやる・・・訴えたら私が勝つんだから!
先に手を出したのは明日菜なんだから!!」
「-----いいよ、出るとこ出るなら好きにしなよ。
その代わりこの誘拐騒動に絡んでいたってことでキッチリけじめつけてもらうよ」
「はぁ?そんなの私知らないし!
証拠も無いし!!
憶測で勝手なこと言わないでよね・・・人の男を盗むような女の浅はかな考えだね!」
「・・・言いたいことはそれだけ?」
ジロリ、と睨むと、声を上げて後ずさる。
・・・あぁ、どうしてこんな風になっちゃったんだろう。
今のほのかは情緒不安定・・・というかちょっとおかしい。
兄貴が上がってきたらほのかを抱えてもらって逃げ出すか・・・と思ったところで、
気づく。
なんで、ほのかが、ここに居る?
あのときほのかと多羅篠は一緒にいたはずだ。
ほのかがここに居るという事は--------------
「ヒューッ、女同士のキャットバトルってすごい迫力だね、
俺も混ぜてもらっていい?そこの爆乳さんもまぜて4Pでどうかな」
-------多羅篠が、部屋の隅の壁にもたれかかり拍手をしながらこちらを煽ってきた。
「・・・兄貴はどうしたの」
「あぁ、あのヒョロガリグラサン?裏口でボロ雑巾みたいになってるよ、腕に自信があったみたいだけどコイツ・・・俺の護衛のヒグマくんには手も足も出なかったよ」
柱の陰から半身を出して、3m近い背丈の巨漢がこちらを見ていた。
デカイ、本当に羆みたいだ。
・・・それよりあの兄貴がやられた?嘘でしょ。
「もういい?
落ち着いたなら俺早速明日菜ちゃんたちとハメたいんだけどなぁ。
・・・あ、逃げようとしてもヒグマがいるから逃げられないからね♪」
-------------何か、何か手はないかな。
ここで私たちがこいつの餌食になったら、
村正は本当に再起不能になっちゃう。
チラリ、と知立先生をみるが、ふるふると首を横に振る。
ほのかはにたりと勝ち誇った顔だ。
「ねぇよしくん、
明日菜の動画が撮り終わったら、明日菜の顔をぶちたいんだけど。
やられたまんまって癪だし」
「いいぜ、ハメる前にぶたれたら興ざめだからヤリ終わったらにしてくれよな」
----------キモチワルイ。
こんな奴らに、こんな奴らにいいようにやられてたまるか。踵を返し、知立先生の手を取り、多羅篠達から距離を取る。
「無駄無駄無駄無駄ぁ、今更逃げられないんだよぉ。
大人しく俺の自慢のイチモツにアヘ顔キメる覚悟を極めなって」
「---------助けて!村正ァー!!!!」
声の限り、思い切り叫ぶ。
「村正ァー!!来てくれ・・・じゃなくい、来い!村正ァー!!」
「呼んでホイホイ救けが来るかマヌケェ!」
多羅篠が声を上げてゲラゲラと笑っている。悔しいけど、笑うなら笑え!
----ガッシャァン、という硝子の割れる音がして窓から何かが飛び込んできた。
窓硝子を突き破って入ってきたそれが、立ち上がる。
「--------呼んだか明日菜ァ!」
その姿を視たら、じわり、と涙がにじんできてしまう。
多羅篠が、ここ何階だと思ってんだ・・・ウッソだろオイとか驚いている。
----------本当に来るのはズルいぞ、村正ァ!そういうところだぞ村正ァ!
私と知立先生と、多羅篠とほのかとヒグマの間に立つ村正。
多羅篠に対して掌を上にした右手を突き出し、握りこぶしから人差し指と親指を伸ばす。
多羅篠を指さして、村正が言う。
「よう、多羅篠。------お前の罪を数えろ」




