SIDEまもり:裏口到着
井上さんが凄い速さで走り、丁度多羅篠一味の使っているビルの裏口側に到着した。
本当に速い・・・この人何なんだろうと思いながら、井上さんに下ろしてもらう。
手早く緊急用のGPSを作動する。
これで父やSPに私の居場所が伝わるはずだ。
「このビルに、井上さんの妹さんと正吉くんが・・・急ぎましょう!」
そう言ってビルに入ろうとしたところで、
女の子が一人こちらに向かって走ってきた。
・・・ほのかちゃん、だ。
私たちに気づいたのか、笑顔で駆け寄ってこようとする。
「ほのかちゃ----」
声をかけようとしたところを、井上さんに遮られる。
コツコツと靴音を立ててほのかちゃんに近づいていく井上さん。
いつものような軽口で、ほのかちゃんに話しかける。
「やぁ、ほのかちゃん、多羅篠って男を探しているんだけど、知らないかい?」
「ええと・・・知りません」
「ほのかちゃんは何でこんな所に?」
「・・・道に迷ったんです」
2人が少しの間、沈黙する。
・・・空気がピリピリするような、妙な感じ。
「もう一つ質問いいかな」
井上さんがほのかちゃんに静かに語りかける。
「うちの明日菜 どこに行った?」
「あなたのような勘のいい人は嫌いです」
そう応えると同時にほのかちゃんの表情が----どろり、と、
侮蔑するような、嘲るような表情に変わる。
それを見て井上さんがこちらに飛びのいてくるのと同時に、
井上さんが立っていたところに巨大な何かが地響きを立てて落ちてきた。
いや、着地した、と言えばいいのだろうか?
身長は2mは越しているだろう。下手したら3m近いのかもしれない。
腕は丸太のようで、全身の筋肉が隆起した、色黒の巨漢。
裸の上半身には炎のタトゥーが掘られていて、
ハーフパンツから出る脚も大人の胴体位太い。
---------これは、人間なの?
そう思っていると、ほのかちゃんが歩いてきた方を、ゆっくりと一人の男が歩いてきた。
パチパチ、と拍手をしながら。
「すっげぇなお前、今のをよくよけたな!
・・・まぁそれでもこいつにブチ殺されるのには変わらないけどな」
ニヤニヤしたいやらしい笑顔でほのかちゃんの隣に並ぶと、
その胸を揉みながら井上さんを指さす。
-------多羅篠世志男だ。
胸を揉まれて恍惚の表情を浮かべるほのかちゃん。
・・・本当に、この多羅篠に堕とされてしまったのね、と悲しい気持ちになる。
「これからお団子ちゃん・・・俺の愛しの明日菜ちゃんのロストバージン撮影会でヤリまくろうってところなんだ。
誰だか知らないけど邪魔してもらっちゃ困るぜ。
・・・ああ、その奥にいる爆乳のネーチャンは前菜ににいただこうかな」
そういって私を指さしながらゲラゲラと声を上げる。
・・・不快だ。
こんなに不快になる男がこの世に存在しているなんて。
「そいつは『ヒグマ』。うちの親父が非合法なドーピングと改造に改造を重ねて造り上げた俺に従順な怪物野郎だ。
しかも表門にはこいつの兄弟の『シロクマ』を向かわせた。
てめえらクソザコが束になっても叶わねえ本物の暴力だ!
死にたくなければ女を置いてとっととゲラウトヒアしてな!!」
「--------イキッてんじゃねぇぞクソガキ。
うちの妹はてめえみてえな奴にくれてやるわけにはいかねぇ」
そう言いながらトントンと足を鳴らす井上さん。
「アレは俺が相手をします。今のうちに行ってください、まもりさん」
「まもりです!」
「----------あってるでしょう・・・ハハハ」
そう言ってサングラスを挙げて笑う井上さんと目が合う。
なんだろう・・・この不思議な気持ち。
でも、今はやるべきことをしなくては。
頷いて、踵を返すと正吉君達のいるビルへ、多羅篠の本拠地へと走る。
--------お願い、負けないで井上さん!
あなたが今ここで倒れたら、妹さんや正吉君はどうなっちゃうの?
じきうちのSPも来る。ここを耐えれば、多羅篠に勝てるんだから!




