SIDE明日菜:蜘蛛の巣
今日はテツくんが休んでいた。
テツくんが休むなんて珍しいなぁ・・・と村正に話したら、村正はもうテツくんにメッセージをいれていた。なんでも用事があるから休むとか。
・・・家の用事か何かかな?
ところで村正ってテツくんに敏感だよね、右かな?左かな?
そうしてお昼になれば、村正と弁当を広げて食べる。
ここ最近は毎日当たり前のようにこうしているけれど、
去年は自分たちがこんな風になるなんて思わなかったな・・・。
村正の事は・・・好き。
ほのかの彼氏だから友達で居ようとしていた。
でも、そのほのかが村正を傷つけて、裏切った。
・・・最低のやり方で。
ここ最近のつらそうな村正を見ていてとても悲しかった。
友達としてなんとか支えてあげたいという気持ちもあったけど、
それでもやっぱり私は、村正が好きなんだ。
馬鹿な事いったり妙な言動も多いけど、
分け隔てなく人に接して賑やかな村正が、どうしようもなく好き。
・・・でも、今の村正はほのかに手酷い失恋をして、
きっと誰かを好きになるなんて考える余裕も、ゆとりもないだろうから。
-------だから村正の近くにいて、村正が立ち直ったときに、
好きって言おう・・・受け入れてくれたら、嬉しいけれど。
ほのかへの負い目もないといえばうそになるけれど・・でも、
ほのかがしていたことは到底許されることではないと思う。
そう言った意味ではごめん、同情できない。
だから「私」は、村正の隣にいれるように、全力で頑張るんだ、
そう決めたから。
・・・ところで今日は何をするにも村正がついてくる気がする。
村正とのお弁当を食べ終わって、
お手洗いに行ってくるといって声をかけたら村正もついてくるといったのでお前ちょっとデリカシー考えろ村正ァ!と言ったら微妙そうな顔で席に戻っていった。
・・・なんか今日の村正、過保護?・・・うーん。
お手洗いを済ませてトイレから出たところで、声をかけられた。
「・・・明日菜ちゃん」
「・・・ほのか」
そこには少しやつれた様子のほのかがいた。
なのになぜか肌の色つやだけが良くて、どこかアンバランスにみえる。
「少し、時間、いいかな・・・相談があるの。少し、屋上に来てもらえない?」
ほのかが、私に?なんだろう。・・・村正絡みかな。
「うん?・・・わかった、いいよ」
なんだろう、と思いながらほのかについていく。
「-------何、これ」
ほのかがみせてきたスマホのメッセージ画面には、男と交わるほのかのあられもない姿の写真や動画があった。
ほのかは震え、顔を隠しながら、呟く。
「私の浮気相手・・・多羅篠くんが、私と別れたくないって。
別れるなら、これをネットにアップロードするって・・・」
-----何それ、リベンジポルノ・・・ってコト?!
「-----警察に言いなよ、一緒についていくから」
「・・・駄目なの・・・この動画の中で、
私、しょうちゃんのこと、しょうちゃんの名前も出してるの。
・・・だからそうしたら、しょうちゃんもまきこんじゃう・・・」
そういう事・・・かぁ。
脅迫はされている、けど、村正も巻き込みたくない。
・・・そうだね、ただでさえ弱ってる村正に、
これ以上負担なんてかけたくないもんね。
「それでね、多羅篠君と、話をすることになったんだけど、
一人じゃ怖くて・・・何をされるか、わからないから。それで・・・一緒についてきてほしいの」
多羅篠世志男。
最低最悪のゲス野郎だ。
出来る事なら会いたくもないけれど・・・、村正の顔が浮かぶ。
こんな事に村正を巻き込みく、ないなぁ。
「わかった。でも一つ条件がある。
人が多いところ、もしくは人通りの多いところで、だよ」
私の答えに、顔をあげてよろこぶほのか。
涙をぬぐいながら、私の手を取ってありがとう、ありがとうと繰り返す。
・・・そういう所は、変わってないんだね。
今日の放課後、多羅篠と話し合いに付き合う事になった。
隣町駅近のオープンテラスに、その男はいた。
多羅篠世志男、最低最悪のゲス男だ。
周囲を用心して見回すけど、今のところ妙な動きはない、と思う。
「やぁ、ほのかちゃん。・・・それと井上明日菜ちゃん」
-----------多羅篠が私を見る視線が、酷く不快。
舐めまわすようなねちっこい視線に、思わず顔をしかめてしまう。
先に腰かけたほのかの後ろで立って、少し考える。
この男の前で腰かけていいものか、と。
「あ、好きなもの頼んでいいよ、何がいい?」
「-----------飲み物はいらない。それより、ほのかのことだけど・・・」
「あぁ、うん。それはもういいんだ。だってもう、目的は達成したから」
-----何を言ってるんだろう?
にやり、とする多羅篠。
様子が変だ。
「・・・ほのか、ちょっと!」
嫌な感じだ。ほのかの肩をたたくと、ゆっくりほのかがこちらを振り返る。
どこか壊れたような、歪んだ笑顔で。
「明日菜が悪いんだよ。明日菜がしょうちゃんを盗るから」
「・・・何言ってるのほのか・・・?!」
後ろから誰かに羽交い絞めにされて、口を塞がれる。
「ン-----?!」
そのまま流れるように--------まるでそうすることが慣れているかのように--------
乗りつけられた車に押し込まれた。
助けを求めようとしたが、周囲を見渡すとここが死角になるように、車が配置されている。
------------嵌められた?!
「ばいばい、明日菜。あとで、よしくんにいっぱい可愛がってもらってね
-----しょうちゃんは返してもらうから」
「先に根城に戻って捕まえておけ。
俺はほのかに“お礼”をしてから後でいく。
・・・くれぐれも手を出すなよ?初物は俺のもんだ」
そんなほのかと多羅篠の言葉を最後に、ドアが閉じられた。
---------助けて、村正・・・!
 




