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「・・・ほのか」
一見すると以前のほのかに似ているが、黒髪はところどころぼさぼさで、
眼の下にも不健康そうなクマができている。
じっと俺の足元に視線を落としているその姿は、
やはり以前のほのかとは違う気がする。
「遅かったね、しょうちゃん」
「まぁな。・・・お前こそ、なんでこんなところにいるんだよ」
俺に聞き返され、何故かキッ、と怒ったような・・・いや、怒って俺をにらんでくるほのか。
「・・・明日菜ちゃんと一緒にいたんでしょ」
だからどうしたって言うんだ?
俺とほのかはもう別れたんだし俺が誰といても関係ない。
別にそんな顔をして怒られる理由はないぞ。
「ああ」
そう、短く返す。
その言葉に、目を見開いて叫ぶほのか。
「・・・・浮気者!浮気者!どうして私がいるのにそんな事するの!」
「浮気者って・・・俺とほのかは別れただろう」
「だとしても!
私はまだしょうちゃんの事が好きなんだから他の女の子にうつつを抜かさないでよ!!」
・・・すまない。何を言っているかわからない。
「ごめんほのか、言ってることがわからない。
それじゃあ俺がずっとほのかに縛られなきゃいけないみたいじゃないか」
「--------そうだよ!しょうちゃんは私の幼馴染なんだから!
また恋人に戻るんだから!!」
「言ってることが意味不明で理解できん。
別れたんだから幼馴染で友達なんだろ。
あと俺は繰り返すようだがよりを戻すつもりはないぞ」
「どうして?!私がちょっと浮気しちゃったから?!それだけじゃない!!
----明日菜ちゃんなの?!
明日菜ちゃんより私の方がしょうちゃんのことを知ってるのに?!
私の方が可愛いじゃない!!!明日菜ちゃんなんかより私の方がずっと上じゃない!!」
「黙れ」
自分でもこんな底冷えするような声が出るんだな、と驚くような声だった。
俺の剣幕に、ほのかがヒッとおびえるような声をあげる。
「繰り返すけど、別に俺がお前に浮気をされた事は俺に魅力がなかったってことだから、仕方ない。そこをもう責めるつもりはない。
--------------でもお前が今言った言葉は許せない。
誰が誰より上だって?
人にはそれぞれいいところがあるんだよ、誰にでもな。
だから誰より上とか下だとかはない。
明日菜には、お前にそんな風に言われるいわれはない。
これは明日菜に対してだけじゃない、誰かを軽んじるような事を気安く言うな」
別に明日菜だからってわけじゃない。
これがテツくんでも、村雨でも、こころちゃんでも、モヒカンくんたちであっても、
俺は同じように激怒しただろう。
これは俺のポリシーで、死んだ母さんが俺に残してくれた教えだ。
-------どんな人でも自分にない良いところを絶対に持っているからリスペクトを忘れるな、と(外道畜生を除く)
滅多にみせない本気の怒りに、ほのかも怯んでいたが、しばらくして俯いた後、声を震わせて言う。
「・・・ほら・・・やっぱり・・・明日菜ちゃんがいいんだ!!」
両目に涙をためて、それでいて憎々し気に、恨めし気に、そして悲しそうに、俺を睨む。
「しょうちゃんは明日菜ちゃんが・・・明日菜が!いいんだ!あの子が・・・あの子のせいで・・・!!あの子がいるから!!」
「だから明日菜だからって訳じゃない、誰に対しても人を軽んじるなと-------」
「うるさい!うるさい、うるさい、うるさい!しょうちゃんの裏切り者!ああああ、わああああああっ!!」
そう言って泣きながら踵を返して走り去っていった。
・・・・大丈夫なのか、あいつ。
話が全然かみ合ってない。
情緒不安定、というのだろうか。
いつかのテツくんと村雨にとがめられた俺の甘さについての言葉が蘇る。
・・・あいつ、明日菜に変な事起こさなければいいんだが。
嫌な予感がする。




