SIDE村雨:男2人なので2/3文殊の知恵
離愁先生に和室を借りて、テツと2人で向かい合いながらその話を一通り聞く。
「・・・という事があって何日か前に藤島ほのかが村正くんを昼食に誘っていましたね」
「ふむ。・・・それに応じるとはやはり村正は藤島に甘いな」
腕を組み、瞳を閉じつつどうしたものか・・・と思案する。
藤島は-------------自分自身に徹底的に甘い。
それは恐らく藤島の両親や、
他ならぬ村正が今まで藤島が何をしてもを許してきたのだろう。
何をしても自分が『最終的には許される』という考えが骨身にしみている、
というのが俺とテツの共通の認識だ。
だからこそ、何をしでかすかわからない恐ろしさがある。
自分に甘い人間は容易く暴走するのだ。
そのため、こうして今も同じクラスにいるテツから色々と話を聞くようにしている。
何か起きるのであれば・・・起きる前に火を消したいと思うのが友としての俺の役割だと思っている。
勿論、いずれはこの寝取り騒動の元凶でもある悪漢達の元締め----多羅篠に討ちいることも視野に入れている。
多羅篠の根城についてはテツが任せてくださいと言っていたので、
尻尾を掴むことが出来れば動くつもりだ。
「今日も恐らく、教室に来ていました。
弁当を持って村正君を誘いに来たのでしょうが、
今日の村正君は井上さんとご飯を食べていました。
---それを虚ろな眼で見ていたのが不気味でした」
「・・・よくない兆候だな。村正の甘さが悪い方向に転んでいる」
「そうですね。僕もそう思います」
2人でお茶を啜り、一息つく。
「だがテツは辛くないか?去年のこともある。
藤島のような女が近くにいて不快ではないのか」
「------いえ、それは全く。
僕個人の中では藤島ほのかは唾棄すべき存在に成り果てましたが、
村正君が絶縁を望まない限りは僕が口を出すことでもないと思います。
一番大切なのは村正君の気持ちなので」
「フッ・・・強いな、お前は」
俺のそんな言葉に、静かに首を横に振るテツ。
「・・・村正君はとても優しい。だから守ってあげたいんです」
「それは俺も同感だ。俺もアイツに救われたクチだ・・・テツ、お前と同じくな。
だからこそ今度はアイツを助ける番だと思っている」
俺の言葉に、我が意を得たり、と頷くテツ。
そうだ、確かに村正は藤島に甘いかもしれん。
----------だがその足りない分を、友である俺たちが補えばよいのだ。
俺も、テツも、藤島ほのかを信用していない。
あの女は俺たちの幼馴染と「同じ分類」の女だろう。
致命的な何かを起こす、という前提で見ている。
「村雨くんならわかってくれると思っていました。・・・村正くんは可愛いですからね」
「む・・・?」
可愛い?奴を、戦う力を秘めた“漢”だとは思っていたが、可愛いとはまた妙な。
「----そうですね、例えばですけれど、村正くんが髪を後ろで縛ってメイド服を着ているのをイメージしてほしいんです」
髪を後ろで縛り、冥土服・・・ふむ、死を覚悟した白装束に神を後ろで結い上げた髷結び・・・決死の覚悟という事だろうか。なるほどそれは益荒男といえる出で立ち、良い!
「そんな村正くんが声をあげている姿・・・萌えませんか?」
白装束の村正が・・・雄々しい咆哮と共に剣を構えている。
周囲を屈強な敵が囲む中・・・村正に背を預け剣を構える俺・・・か!
「-------燃えるな!!」
「萌えますよね!!」
「やはり・・・本日二度目ですが村雨くんならわかってくれると思いました」
テツが差し出した手を固く握り返す。
フッ・・・テツもまた漢、という事か。
やはり男ならな憧れる場面だ、わかるぞ。
「では僕は引き続き多羅篠について調べますね」
そういってこちらに背を向け、部屋を出て行こうとするテツ。
「あまり危ない真似をするなよ、テツ」
俺のそんな言葉に、
----------アゴを上げ、まるで挑発的に見下ろすようにして振り返る。
「大丈夫ですよ。村正くんは必ず守ります----僕は村正君が大好きなので」
そういうテツの前髪が首が大きく傾いた角度になったせいでさらさらと流れる。
普段隠れているテツの素顔が、ひどく蠱惑的で、どこか退廃的な表情を描く。
・・・セレンの健康的な色気や、井上の初々しさともちがう、もっと危ういもの。
--------------傾国の美女
そんな言葉がふと脳裏に浮かんだ。
シーッ、と立てた人差し指を一本、触れさせて、薄く笑って部屋を後にするテツ。
・・・俺のような取り立てて目立つところのない、地味な男が言うのも変な話だが、
-----村正のまわりは面白い奴らばかりだな!
腕組みし、瞳を閉じてそんな事を考えるのだった。




