18.
「それではよろしくお願いします、村正先輩」
俺の前ではやる気満々の鋼の狼、キョウスケ君。
審判として立ち会うのは村雨。
セレンと明日菜がやいのやいのと応援(?)している。
-----どうしてこうなった?
鋭い眼光でこちらを見るキョウスケ君。
いやっ、そんなに見ないで恥ずかしいわ・・・いやほんとやめて!
期待に満ちた目で見ないで!
「それでは双方、構え------はじめ!」
村雨の声に、突貫してくるキョウスケ君。
-------どうしてこうなった?
やっぱりそう思わずにはいられず走馬燈・・いや、違うけども。
こんなことする羽目になったことを振り返るのであった。
その日、帰ろうとしていると教室にキョウスケ君が訪ねてきた。
村雨じゃなく俺を訪ねてくるなんて珍しいな・・・と思いつつ話を聞こうとしたところで、
すさまじい勢いで頭を下げてきた。
「村正先輩!どうか俺と手合わせをお願いします!!」
腰を90度ピッタリとまげて平に頼み込んでくるキョウスケ君に、
教室のクラスメートたちもざわめきはじめる。
キョウスケ君は剣道部期待のルーキーで、
中学時代にも拳法かなにかで賞を取ったツワモノとして有名らしい。
そんなキョウスケ君がわざわざ訪ねてきて手合わせというものだから皆驚いてるんだろう。
俺も俺も!
「村正先輩がなんらかの理由で拳を封印したものとは推察しています!
ですが目の前に強者がいて戦えないのは歯がゆく、一度だけ!
一度だけでよいのでどうかお願いします!!!」
腰を直角から動かそうとしないキョウスケ君の様子にクラスメートたちも何か誤解を始めている!
キョウスケ君俺を過大評価しすぎていやしないかねキミィ?!
「ふーん、面白そうじゃん。闘ってみせろよマフテ村正ァ!」
ニヤニヤしながら面白そうに煽る明日菜。
身構えている時も来るタイプの死神もいるんだよ推定サイズE!
実際に闘うのは俺なんだぞ痛いのやだよぉ!
「ありがとうございます!!村正先輩!井上先輩!!」
あっ、明日菜の余計な一言でなんかキョウスケくんが誤解しちまったぞ、
どうしてくれるんだ明日菜ァ!恨みがましい目で明日菜を見る。
「・・・ゴメン、応援くらいはするからそんな目で見ないでってば」
その後、喜々として村雨に俺との手合わせの許可を取ったと報告するキョウスケ君に、
「ほう・・・、村正とお前が」と興味津々といった様子で二つ返事の村雨。
だめだこいつら武闘派師弟だ・・・!
そんな流れであれよあれよという間にキョウスケ君との手合わせをすることになりm・・・ハッと気が付いたら流れで剣道場でお互い体操着に着替えて構えていた。
--------------そして今に至るのであった。
「踏み込みの速度なら負けません!全力でぶつけるのみ!」
頭から突っ込んでくるキョウスケくん。
あ、これ“ご挨拶”ってやつか------久我斗兄貴が脳裏に浮かぶ。
「なんとぉーっ!」
理解してしまったので、こちらもキョウスケ君の頭に俺の頭をぶつける。
・・・死ぬほど痛いぞ。
でもご挨拶から逃げたら久我斗兄貴に笑われちまうからな・・・うおおおめっちゃ痛い!
「----流石です村雨先輩」
ご満悦って感じでイイ笑顔のキョウスケ君。
やめてそのスマイルちょっと怖いよ!
ロアナプ・・・なんだっけ、悪党が集う港町の住人みたいなイッてるスマイルゥ!
もうどうなってもしらないんだからねっ!主に俺の身体が!
あれだ、赤髪の男の子を助けた時のアレ、明日菜の持ち機体のアレ、ええっとアレだ!
頭突きの衝撃で頭シェイクシェイクされている中、胡乱な頭で記憶を呼び起こす。
頭突きの衝撃でお互いに後ろに吹き飛びつつあったところを、
体勢はそのままに無理やり地面をけって前に跳ぶ。
跳んでる最中の体制はさておき懐に飛び込んでしまえば、と思って前跳びしたけどうまく距離を詰めるのに成功したぞ。
「---何?!」
「行くぞっ、白虎爪!」
両手に気を集中して左右の連打を叩き込む。
「ほう、ご挨拶からそのまま懐に飛び込むか----やるな村正!」
なんか村雨が目をギラつかせてこっちを見ている。
・・・やめろよそのウズウズしてる目ェ!
とはいえキョウスケくんも片足を挙げてガードしてきたので完全には技が入らなかった。
-------あっ、まずい追撃が来る
咄嗟のカンでバックステッポゥ!して距離を詰める。
お互いの距離が再び開いたところで、キョウスケくんが楽しそうに笑う。
「やはり部長が友と呼ぶだけありますね・・・こんなに楽しい戦いは久しぶりです」
うん、ごめんそれ多分勘違いだと思うなぁ!
「多少古臭い技ですが・・・威力は関係ありません!」
あっ、これ嫌な予感がするぞ
凄い勢いで突進してきて距離を詰めるキョウスケ君。
まずい、ガードを---と思ったところでキョウスケ君の口元が笑っているのに気づいた。
あっ、やばいこれ俺死ぬんじゃね?
その拳に回転式弾倉を幻視する。
「どんな装甲でも・・・撃ち貫くのみ・・・!」
キョウスケくんの拳を左腕でガードする、いや・・させられてしまった!
ギラリッ、とキョウスケ君の眼光が鋭く光る。----これアカンやつだ!
拳を左腕でガードしたままの姿勢なのにそのまま身体を持ち上げられる。
どんな膂力してんのキョウスケ君?!
ズンっ、と身体に響く衝撃。
打撃を受け止めた後に遅れてくる、杭を討たれたような鈍痛。
これが噂に聞くキョウスケ君の十八番、突っつき----リボルバースパイク!!
撃ち込まれた杭が爆ぜるような痛み。
「やっっっってくれたなキョウスケ君ゥ!」
吹き飛ばされ後ずさりながら踏ん張る。
「いいぞー!いけいけキョウスケェ~!」
「負けるなー!頑張れ村正ァ!根性みせろ村正ァ!」
女子たちの声援(?)が騒々しい。
根性っていうかもうこれほんと瀕死なんで、とっても痛いんで!
おのれ推定サイズEめ・・・!!
お前の迂闊な一言で俺はこんな目にあってるんだぞ推定サイズE!!
「・・・驚きました。直撃させたはずなのに平気なんですね」
君の目フシアナ・アイかなキョウスケ君?どうみても満身創痍!虫の息!みてみなよ俺の左腕プランプランしてる!
「キョウスケのスパイクを正面から受けて立っているとはやはり大した耐久力だ。
俺とて直撃したら耐えられるかわからん-----ゆえにすべて剣で受けるのだがな」
立ってる俺を称賛してくれている村雨。
お前木刀あるかもしれんけど俺素手!騎士じゃないから無手にて死せる、わかるぅ?!
クソッ、ツッコミいれたいけど呼吸も乱れてツッコミが出来ない。
声をあげようにも肺が痛いもんね!クソッタレー!
でも今のやり取りで理解したのは、キョウスケ君は攻撃に全振りしたようなスタイルだ。
これこっちも押さないと勝てないぞ。
全身くまなく痛いが、丁度距離が空いた。
この距離なら俺が技を出してくるかもしれない、-------とキョウスケ君は考えてるだろう
俺の技がキョウスケ君をとらえるか、
キョウスケ君の突っつきがもう1回俺に当たるかかなりきわどい距離だ。
「分の悪い賭けは嫌いじゃない・・・貰います!」
再度突貫してくるキョウスケ君。
「------------!!」
前身に全振りした突進で瞬く間に懐に飛び込まれる。
「バンカー!いけぇっ!」
突き出した拳を再び左腕で止める。
今度は持ち上げられず、突進そのままに衝撃が何発も襲ってくる。
一発、二発・・・三発、四発、五発、六発!!!!!!
立て続けに杭を六発撃ち込まれたかのようだ
じき、この杭の痛みが襲ってくるのだろう。
だがこの瞬間に俺は全力で賭けた・・・随分と分の悪い賭けだけどな!
「手加減はしないぜキョウスケ君・・・全力全開!」
「何っ?!」
戦い慣れしているキョウスケ君の突進とスパイクを回避する方法も、
突っつきに先手を打つような技量も俺は持ち合わせちゃいないのだ。
俺に出来る事は---命中した後のこの隙に、こっちの大技をカウンターで叩き込む!
両腕に気を込めて連打し、そのまま足技で右から左から、蹴りまくる。
「せぇい!でぇい!」
「----しまった!」
スパイクを全弾撃ち切った状態の無防備なキョウスケ君に、
速さで勝るこの技は回避できない。蹴って、殴って、懐に飛び込んで。
「モード麒麟!この一撃で極める!」
なんかバチバチと両腕が光ってるぞ。多分気のせい、気のせい
「村正ァ!なんか両腕光ってる!」
-------あっ、気のせいじゃなかった!
「でぇぇいやっ!」
そのまま拳でキョウスケ君の顎を下から撃ち抜く。
「----お見事、ですっ・・・!!」
そのままキョウスケ君が吹き飛ばされて、地面に崩れ落ちる。
零距離フルコンボ喰らったキョウスケ君は、
立ち上がろうとしたがダメージに立ち上がれず、大の字に伸びている。
それでも意識を失ってないのは、すごい悪運なのか強運なのか。
「・・・ハァッ、ゼイ、ハァッ・・・」
ちなみに俺は両肩で息をしている。
頭の先から指のつま先まで痛みMAXで指先一つ動かせないぞ
「-------勝者!!村正ッッッッ!!」
村雨の宣言にわぁっ、と明日菜が飛びついてきた。
「すごいじゃん村正ァ!見直したぞ村正ァ!」
激痛に襲われてなければ背中に感じるたわわな感触がご褒美だったのに、
この状態だと痛い以外考えられないッ・・・!!くやしい!でも痛み感じちゃう、ビクンビクン!
「あーあ、負けちゃったねキョウスケェ」
そう言いつつ、地面に膝をつきつつキョウスケを労わるセレン。
「・・・あぁ。俺もまだまだ強くならないとな」
「-------んっ、その調子その調子♪」
ニンマリ笑顔のセレン。なんだかんだこの2人はいいカップルなんじゃなかろうか。
明日菜を背中にぶらさげながら、そんな2人を見ていると村雨が声をかけてきた。
「・・・見事だった村正。
まさかキョウスケのスパイクを7発も受けきってカウンターを返すとはな。
次の機会にはぜひ俺と----」
スパイク、合計7発?・・・あっ、あと6発。
「・・・あっ」
時間差で襲ってくる追加6発分のスパイクの痛みにもんどりうってビクンビクンッ!してしまう俺。ちなみに明日菜は飛びのいた後にそんな俺の様子に滅茶苦茶ケラケラ笑っていた。おのれ明日菜ァー!大体全部お前のいらん一言のせいだぞこれっ!!ゆるさんぞ推定サイズE!おのれおのれおのれおのれおのれーーーーー!!
「---で、俺のスパイクは技の前に杭のように闘気を集めておくんです。
それを拳が当たる瞬間に相手に打ち込んで、闘気を解放することでそれを内部から炸裂させます。
なので拳が当たった後の時間差で相手に追加ダメージを与えることが出来るんです」
「・・・ほへぇー」
なるほど、さっぱりわからん!
犬を3つ書いたらけるべろすって読む、みたいな顔をしながら話を聞いている。
なんか俺を視る目が村雨をみるような尊敬のまなざしになったキョウスケ君に、
十八番の突っつき技、リボルバースパイクの解説とレクチャーをされた。
キョウスケ君的には同じ拳が得物なので何か通じるものがあるらしい。
いつかどこかで役に立つかもしれないから、との事だけれども。
うーん・・・これがどこかで役に立つ日が来るのかもしれないし来ないのかもしれない。
熱心に説明してくれるキョウスケ君の言葉はしっかりと覚えておこう、
言ってる意味は殆ど理解不能だけど!
ちなみに次の日、全身筋肉痛で動けなかったので学校を休みました!!
だからバトルものに耐えられないんだってばよ俺の身体ァ!!




