15.
昼休みのチャイムが鳴った後、
今日はどうするかなと考えていたら教室の入り口からほのかに声をかけられた。
「しょうちゃん・・・お昼、一緒にどうかな?」
おずおずとかけられた声に、顔を上げる。
どうするか迷ったが、ほのかの祈るような表情と、
その背に見える少し大きな弁当箱の包みに、断れなかった
「・・・わかった。行くよ」
持参してきている俺の弁当を持って移動する。
道中、他愛ない話をしながら屋上に移動した。
運よくベンチがあいていたので、並んで腰かける。
「今日はいい天気だねぇ、しょうちゃん」
「・・・そうだな」
正直、胸中は今でも複雑だが、幼馴染の友人としての交友は続けていこう、
と決めたのは俺だ。
だからこれくらいの誘いなら、まぁ、のってもいいかなと思った。
ほのかがそいそと広げる弁当箱の隣に、俺の弁当箱も広げる。
「じゃーん!今日はお弁当を頑張って作ってきました!」
そこには色とりどりの弁当がある。
・・・そう、確かに、人並み以上には綺麗に作られている。
「おー、綺麗にできてるなぁ」
そういいいつつ、ほのかが俺の弁当箱を見て驚く、
「わぁ、しょうちゃんのお弁当もすごい・・・しょうちゃんお料理、こんなに上手だったんだねぇ・・・」
-----------ほのかが弁当を作ってこなくなってからずっと自分で弁当を作っていたんだ。
半年以上毎日弁当を作っていれば、嫌でも腕前は上がるんだよな・・・
そんなことを思いながらいただきます、と弁当を取り合う。
からあげ、ハンバーグ、たこさんウィンナー
ほのかが作っていてくれた弁当の、常連メニュー。
「どう・・かな?」
心配そうにこちらをみるほのか。
からあげを一つ、頬張る。
・・・普通に美味しい。
「ああ、美味しいよ」
そんな俺の言葉にやったぁ、と顔を綻ばせる。
そんなところはかわってないんだな、と切なくなりつつ、
どうして俺が美味しいということばを使ったのか、
気づかない様子に少しだけ寂しさを覚える。
そう、普通に美味しいが俺が好きな味というわけじゃない。
たしかに手間をかけて作ったんだろう。
だが、前にほのかがつくってきていた弁当にあった
生前うちの母親がほのかに教えていたちょっとした隠し味や味付けのコツが、すっぱり抜けている。
だからここにあるのは、手順通りに作った、万人受けする分量の、教科書通りの料理。
それが悪いわけではないし、美味しいと思う。
ただ、多羅篠に溺れる前のほのか自身がしていたことを、
すっかり忘れてしまったのだな、と思うと寂しくなった。
うちの母さんと並んで台所に立つほのかは、
俺の好きな味付けを母さんから熱心に聞いては実践していた。
だからこそほのかの作る料理は、「とても美味しかった」のだ。
「嬉しいな・・・じゃあ私も、しょうちゃんの料理、ひとつ貰うね」
そういって俺が造ったシュウマイを一つ取り、頬ばるほのか。
「わぁ、美味しい!凄いねしょうちゃん!・・・あっ・・・」
俺の料理を食べて、気づいたのだろう。
自分の料理に足りない、本来あった積み重ねのことを。
--------今日の料理は、かつての自分の料理に届いていない、と。
その表情が、曇っていく。
そんな顔をさせたかったわけではないし、
普通に弁当のおかずを交換して食べれればいいと思っていたんだけどな。
「・・・そっか。私、そんな事も忘れちゃってたんだなぁ。ごめんね、こんなお弁当---」
俯いたほのかの様子に、ガシガシッと頭をかいた後----あんな事はあったが、
それでもほのかが完全に憎いわけではないのだ、
と自分の心を認めつつ、ほのかの料理を口に放り込んでいく。
「あぁっ、しょうちゃん?!」
2人分の弁当を掻きこむ。
「はい、ごちそうさま」
そういって両手を合わせる。
「あっ、ごちそうさまです」
つられてほのかも手を合わせる。
「あー・・・まぁそのなんだ。作ってれば色々と思い出すこともあるだろ、多分な。
今日の料理だって美味かったぞ」
そういって立ち上がり、気が向いたらまた誘ってくれ、と言って背を向ける
「えへへ・・・やっぱりしょうちゃんはやさしいなぁ」
のそのそと弁当を片付けるほのかに、先に行くぞと声をかけて教室に帰る。
「私って、ほんとバカ・・・」
そんな、ほのかの涙交じりの呟きは空耳ではないだろう。
幼馴染で古い友人として、どうにか自分の足で立ち上がってくれれば、と思うのだ。




