14.
次の日の朝、ほのかが家の前で待っていた。
-----マジかよ、俺だったら気まずくて一緒に登校しようとか思わないぞ・・・
そんな驚きもあったが、お互いにおはよう、と挨拶して歩いた。
とはいえどうしてもぎこちなく、
当たり障りのない会話をしてそれぞれの教室に向かい、
席に着いた後にめ息をついた。
「は~~~~~~っ」
机に突っ伏しながら、どうするのが正解だったのかと考える。
「大丈夫か、村正ァ」
明日菜の声に、「だいじょばないかもなー」と返すと黙って頭を撫でられた。
・・・最近明日菜がすごくやさしい。
昼になると、村雨が教室に昼の誘いに来た。
珍しいな・・・と思いつつ、一緒に誘われたテツくんと3人での昼食になった。
剣道部の控室を開けてあるという事だが、
剣道部の控室は手入れの行き届いた茶室といった風情の部屋だ。
靴を脱ぎ畳敷きの間にあがる。
なんで剣道部が部室の隣に控室なんて名前のこんな部屋があるかというと、
この学校の剣道部の離愁先生が凄い人物で、
剣道部の顧問に迎えるにあたって学園が用意した部屋なのだとか。
そんな部屋を使っていいのか?と聞くと離愁先生も快諾してくれたとの事。
きっと村雨の普段の行いがいいからだな。
思わず部屋の雰囲気に合わせて正座なんてしちゃう!
奇しくもここに揃ったのは、
幼馴染に浮気・NTR・BSSといった事をなにかしらキメられた幼馴染被害者の3人である。
------幼馴染って怖いね!
そんな事を思いつつ昨日の顛末やここ最近の事を村雨にも説明する。
湯呑に入った茶を飲みながら、瞳を閉じて黙って話を静かに聞く村雨。
こういう所、実に貫禄を感じさせる漢だ。
・・・ちょっとかっこいいなんて思ってないよ。
「成程。まずは大変だったな、村正。----------だが本当にそれでよかったのか?」
そういい、静かに瞳を開けて俺を視る村雨。
視ればテツくんもじっとこちらを見ていた。
「どういう事だ?」
「優しさは人を救いもするが、人を蝕む毒にもなるという事だ」
得心したように頷くテツくん。
----------なるほど、さっぱりわからん!
「藤島さんは悪いことをしました。
理由は色々とあったかもしれませんが、
恋人を裏切って他の男に靡いたクソヴィ・・・浮気者です」
ナチュラルにヴィッチとか言おうとする当たり、テツくん時々容赦ないよね。
「失礼しました、つい心の声が。
藤島さんは自分がした浮気自体は悪い事だと認識して反省しているとは思いました。
でも村正君は深く追求することも、強く責めることもせず、
浮気したから別れようとだけ言って寝取り野・・・多羅篠世志男についても、
結局なぁなぁになってしまいました。
勿論、長い付き合いだからというのはわかります。
ただ、そのせいで藤島さんが抱えていた罪悪感が
不完全消化で残っているのではないかと思います」
「・・・そうなのか、そうかもな」
俺は『積み重ねてきた時間』だとか、『それでもほのかが嫌いにはなれない』、
という事を言い訳にして、あまり踏み込まずに、ただほのかと別れることだけをした。
でもそれは俺自分が傷つきたくないからじゃないのか。
・・・自分自身でもわからなくなってきたぞ。
「藤島さんは、ここから罪悪感を抱えてもがくのではないか、そのもがき方が心配です」
「それを藤島に与える罰というのであれば、俺からは何も言えん。
だが、宙吊りにされたままの気持ちが何を起こすのか、
俺はそこが恐ろしい。
それこそ悪意無くする行動でどんな火の粉が降りかかるやも知れん。
----------------女は怖いぞ、村正」
腕を組み、自身の身に起きたトラブルを思い出しているような村雨。
「僕の時は幼馴染に素直に、
『人を騙しておいて裏では他の男の上で腰振ってる股ユルクソヴィッチが二度と顔を見せないで下さい』
『他人の精液の匂いがする自称彼女が近くによるとイカ臭くて不愉快なので今後半径10000km以内で生命活動しないでください』
・・・ってストレートに言って絶縁しましたけど、
村正君はそういうことをハッキリ言える人じゃないと思うので心配していました」
-----人を騙しておいて裏では他の男の上で腰振ってる股ユルクソヴィッチ
あんまりにもな右ストレートだが、
実際やってることだけいえばほのかも同じなんだよな。
あとテツくんは虫も殺さないような顔をして容赦ない毒舌を吐くよね、
割とドン引くくらいエゲつない事言うんだよな。
テツくんの場合浮気幼馴染のせいで文字通りに「死にかけた」から、
生命の危機にあわされればそうも言いたくなるよなという感じではあるけれど・・・
俺たちに成敗されて崩れ落ちた幼馴染の女の子にこれでもかというほど正論と罵倒のワンツーパンチで再起不能に追い込んでたなぁ。
テツくんは怒らせたら怖いタイプ。
普段怒らない奴ほど起こると怖いよねぇ・・・俺も怒らせないようにしよう。
「ですが、昨日の藤島さんの主張はちぐはぐで、何か歪なものを感じたのも事実です」
「藤島の行動には気をつけておけ。何を起こすかわからん。
そして何か救けが必要な時は相談しろ、俺でも、テツでもお前の周りにいる人間にな」
その言葉にテツくんも頷く。
そういう村雨に、心配してくれてありがとうと頭を下げる。
持つべきものは友達だよね!
あと、同じ幼馴染被害者故のシンパシー。
我ら生まれた日、生まれた場所は違えども幼馴染を寝取られ、ざまぁすることを誓わん!
とかそういう。
「さて、堅苦しい話はここまでにしてお前たちにもこれを渡しておこう」
そういって村雨が数枚のチケットを渡してきた。
「これは・・・駅前に新しくできた複合室内プール施設の『どきどきザバーン』の招待券!!」
「ああ。俺の実家と、親友の実家、それとうちのマネージャーの両親があそこの出資者の一人でな。おかげ内覧会のチケットが結構な枚数ある。ここにお前と、テツ、それと井上と山茶花の分があるから持っていけ」
剣道部から俺と、一年をひとりとマネージャーが行くと話をしてくれた。
剣道部の一年と言えば鋼の狼のキョウスケくんかな、あとキョウスケくんにホの字のあの女子・・・セレンか。
凄いスタイルの金髪美女なんだよな、鋼の狼くんもスミにおけないぜ。
「まずは滅入った気分を転換するのも必要だ。今週末、空けておけよ」
「・・・何から何までありがとうな」
そういいつつ、予鈴に合わせて立ち上がろうとしたら慣れない正座で足が痺れて立ち上がれなかった。痺れる脚に突っ伏したまま動けない!
そんな俺の様子に、俺をひょいっと抱きかかえるとそのまま俺の教室まで運ぶ村雨。
「思ったより軽いな。三食きちんと食べているか?」
そんな事を言いつつ所謂お姫様抱っこで俺を運ぼうとする村雨。
死ぬほど恥ずかしいからおろしてほしい、やーのやーの!と懸命に抵抗するも筋力で村雨に勝てるはずもなかった。
ちなみにテツくんはいつものように気配を消して隣をてくてく歩いていた。
教室までの道中で女子や一部の男子が何やら黄色い悲鳴を上げているのを、
やっぱり村雨はモテるんだよなぁ・・・と思いながら聞いていた。
マササメとかサメマサとか聞こえた気がするけどよくわからないな、
明日菜がよくそんなことを言っているような気もしたが。
そんな事を考えながら教室につくと、
村雨に抱えられた俺をみて明日菜が変な悲鳴を上げて興奮していた。
よくわからんがそういうところだぞ明日菜ァー!!




