13.審判(1回目)
ふーっ、とため息をつく。
これ以上ほのかを一方的に追い詰めるような真似をしても後味が悪いなぁ・・
ついイモを引きそうになり思案をしていると、クローゼットの中から無言の圧を感じた。
これはテツくんの無言の声。
ここで怯むな。行け、踏み込めという声なき声が聞こえる・・・。
-------テツくん・・・やるんだな!?今ここで!
テツくんに心の背中をドロップキックされる形で踏み込んでいく。
暫くして泣き止んだほのかに、ゆっくりと聞いた。
「なぁ、ほのか。どうして多羅篠と二股したんだ?
・・・俺に何か不満があったのか?」
そうやって聞いても、俯いたままで答えてくれない。
仕方ないな、と椅子から降りて、ほのかの前に座り込む。
ほのかの肩に手を置いて、諭すようにゆっくりと言う。
「お願いだ・・・俺はほのかの、本当の事を知りたいんだ。
俺自身、今だってほのかに対しての感情の整理がついていないんだ
このまま黙っていられたら、その方が辛いよ。
ここで、ほのかを嫌いになりたくない」
その言葉に、ピクリ、と身を震わせるほのか。
「・・・よしく・・・多羅篠君と出会ったのは、
中学三年生の時。しょうちゃんと、隣町にデートにいったとき」
あったなそういえば。ほのかと隣町にデートに行って、
俺が赤い髪の男の子を不良から・・・カッコつけて助け出した時だ。
ライフゲイン・・・うっ・・・頭が・・・
厨二病の傷がいらんところで抉られる。
・・・ところで今普通によしくんとか言おうとしたなほのか。
話の腰を折るのも良くないので今は黙っておくけど。
「-------あの時道を聞いていた奴か」
「・・・うん、それが、多羅篠君だったの」
-------------昨日今日とか春休みってレベルじゃないのかよ・・・
心の中で、嘘だと言ってよ・・と言いたくもなる。
「それで、そこから、しょうちゃんとの恋愛相談にのってもらうようになったの
・・・幼馴染の男の子とうまくいけるように、なんでも聞いて・・・って。
それで、頼りにしているうちにね、直接会って話をしよう、会いたいって言われて・・」
・・・ん、待てよ。いつから多羅篠と会ってたんだ?
「中学三年生の・・・夏休み前から・・・」
マジかよ・・・。
そんな前からかよ、全然そんなそぶり見せなかっただろ
怖ェよ・・・女って怖ェよ・・・
「でも、会っていただけ!そのころは!本当だよ!」
そんな前からいただかれてましたとか聞かされたら今の俺でも泣くぞ。
「しょうちゃんと付き合っていて、毎日楽しいけど・・・
それでもどこか満足できないものがあって。
・・・しょうちゃんが悪いってわけじゃないの!でも、ただ・・・」
「ただ?」
「多羅篠君、かっこよかったし」
そうだな、確かに顔はイケメンだもんな・・・そこは否定できない!
「それに、しょうちゃんといても、しょうちゃんのことは大好きだけど・・・
ドキドキしなかったの。一緒にいるのが当たり前で、物足りないような・・・。
でも、よしくん・・・多羅篠くんと一緒にいると
ドキドキして・・・これが恋なのかもって思って。
それで、つい、誘いに乗ってしまったの」
ドキドキ・・・か。
・・・物心ついたときからずっと一緒にいたからそういう感覚がなかったのかな。
そうか、ほのかはそんな風に俺との関係を感じていたんだな・・・。
「そうして何度もあっているうちに、
えっちなこと上手にできたら幼馴染も喜ぶよって。
・・・それで、身体を許してしまいました」
-----------マジかー・・・・・・
がっくりと項垂れる俺。
「しょうちゃんがかっこわるいってわけじゃないよ!?
でも、多羅篠くん、いろいろなところや、パーティーに連れて行ってくれたり、
えっちも上手で・・・お金もあって、たくさんプレゼントくれるし、それで・・・」
「それで、二股してしまったんだ・・な」
「・・・はい」
ほのかもまた、項垂れている。
「それなら俺と別れて普通に多羅篠と付き合えばよかったんじゃないのかそれ」
そういうと、また目を泳がせるほのか。
「違う・・・一緒にいたいのはしょうちゃんなの。
付き合って、一緒に大人になって、いずれは家族に・・・って思えるのは、
間違いなくしょうちゃんだけなの」
「そんなに好きでいてくれるのに他の男に身体を許すのっておかしくない?
いや、まぁそれだけ多羅篠が女の扱いとか心の隙間に入り込むのが上手かったのかもしれないけどさ」
「・・・どうしてあのとき、
よしくんの誘いに乗っちゃったのかな・・・----でも、しょうちゃんに別れるって言われて、
今までずっと一緒にいたしょうちゃんが隣からいなくなるんだ、って思ったら怖くなったの!
そんなの絶対嫌だ、しょうちゃんにはずっと隣にいてほしい、って思って
やっぱり私はしょうちゃんがいいの!」
え、何。
居なくなると思ったら惜しくなったの?
俺ってそんな扱いだったのかよ
ほのかが口を開くたびに俺の気持ちが萎れていくぞ・・・。
もうほとんどグロッキーなんだけど助けてテツくん・・・
助けを求めるようにチラッとクローゼットを見ると、
なぜかメイドのアキちゃんががんばれ♡がんばれ♡してるビジョンが思い浮かんだ。
・・・まだだ、まだ終わらんよ!
「最近の多羅篠との事はまぁ、俺も何回か直接目撃してるんだけどさ。
お前、いつから多羅篠とそういう関係だったんだ?」
その質問に、もごもごと言いにくそうにするほのか。
去年のクリスマスデートがドタキャンされた事を思い出す。
あのあたりから関係があったんだろうなってのは想像が出来てしまうのが悲しい。
「・・・頼むよ。ここで変に隠されたり嘘をつかれるときっとほのかを嫌いになる」
嫌いになる、のことばに、ヤダッ・・・と震えたほのかが観念したように答える。
「・・・花火大会の日」
嘘だろお前!!!!!
花火大会の日って俺が母さん亡くしてベコベコに凹んでた時だろ?!
お前多羅篠といたした後にうちにきて俺とチューしたの?
俺あれがファーストキスだったんぞ?!?!
予想外すぎる答えに正直ドン引きする俺。
あぁ、そうかだからあの時のキスはリンゴ飴の味がしたのね・・・
お前多羅篠と夏祭りに言ってひと夏の経験を終わらせた後で、
俺のところに来てあんな事言ってたのね
・・・もう人間不信っていうか女性不信になりそうだ。
今からでもあの日にタイムスリップして口の中消毒液で洗浄したい
都合よく過去にループしたりしないかな・・・
「ないわー・・・いや・・・ないわ・・・」
思わず口から心の声が零れだしてしまう。
衝撃のあまりに頭がどうにかなってしまいそうだ。
俺の言葉に、ひうっ、と泣き出すほのか。
泣きたいのはこっちだよ。
俺が好き、でも多羅篠に身体は許す
ちょっと何言ってるか意味が解らないな。
「・・・・ほのか、お前もう、服着て帰れ」
「で、でもしょうちゃん、私・・・私・・・」
は~~~~~~~~~~~~~~っ、と盛大に溜息を零す。
「そりゃさぁ、
俺だってお前の事好きだったしいつかはそういうことしたいと思ってたよ。
年頃の男子だからな?
ぶっちゃけ初めてを他の男にってのはまぁ悔しい気持ちはあるけど、
まぁそれは俺に魅力が足りなかったからだろう。
ショックだったのは、長い間二股かけられていたことと、
それをギリギリまで誤魔化そうとしたこと。
そこで誤魔化さずに今の通りに正直に言って謝ってくれてたら、
もうちょっと別の対応ができたかもしれない」
そんな俺の言葉に、それじゃあ・・・と希望を得たような顔をするほのか。
「でも無理。
こと此処に至ってやっと本当のこと言って、しかもその理由がこれ。
というか俺のファーストキスの思い出がひっどいトラウマになるわこんなん
俺、もうお前を信じられないってのが俺の正直な気持ち」
そんな言い方って酷いよ、と再び泣きはじめるが泣きたいのはこっちだよ!
もう一人になりたいさっさと出て行ってくれないかな・・・と思いつつ、立ち上がる。
「やだ、やだよぉ!しょうちゃんと離れたくないのぉ・・・!」
そういってこっちの足にしがみつき・・・というか足に抱き着いてくるほのか。
いい加減服を着てくれ風邪引かれても困る。
「とりあえず、お前に二股浮気寝取られされて、
それを嘘ついて隠そうとしたことに俺はすごく傷ついた。
で、お前とはつきあっていけないの。ここまではいいな?」
「よくないっ!」
途端にシャキッ!としながら言うほのか。
「なんでそういう所だけ返事良いんだよ!
・・・まぁともかく、長い付き合いの幼馴染だし、
恋愛感情はなくなっても友達だとは思ってるよ。
これが理由で縁を切るとかそういうつもりはまぁ・・・ない・・・し?
普通の友達として接していけばいいんじゃないかね。
これが俺にできる最大限の譲歩」
-------これが、俺が今出した答え。
というかバレたら別れたくないって言うけどこれ、
バレなかったらいつまでもずるずる多羅篠と続いていたんじゃないのか?
「じゃ・・・じゃあ・・・また、お友達から・・・
しょうちゃんに好きになってもらえるように、頑張る・・・頑張るからっ!」
・・・いや、無理だろ・・・と心の中で思わず突っ込む。
「・・・あー、まぁそこは俺がとやかく言う事でもないが
俺としてはスッパリあきらめてくれと言いたいところだ。
俺は幼馴染の友達としての親愛の情はまだあるけれど、
ほのかと付き合い続けたり、また恋人になりたい、とは思えない。
多羅篠と付き合うかしたほうがいいんじゃないのか?」
「・・・違うの、よしくんとはそういうんじゃないの!
私が好きなのは、ずっと一緒にいたいのはしょうちゃんだけだから!」
ほらみろ!お前多羅篠のことよしくんとか言ってるぐらいの仲だったんじゃねーか
・・・怖いよ女って。
確かにほのかの心は俺を好きなままなのかもしれない。
けど身体はきっと違うんじゃないかな・・・と感じる。
それをほのかがどこまで自覚しているかはわからないけれど・・・いや自覚してたらなお怖いけど。
「お前が一緒にいたくても俺はいたくない・・・。
わかってくれ・・・」
もうグロッキーになりながら言うと、
ほのかがすすりなきながら服を着だした。
今なら村雨が恋愛は当分コリゴリだっていった気持ちがわかる・・・
再びため息をつきつつ、ほのかが服を着るのを見守る。
「あと、お前なんでそんな裸で迫ってきたんだ?ちょっと強引すぎるだろ」
と聞くと、恥ずかしそうに、答えるほのか。
「えっちなことをして、
気持ちよくしてあげたら・・・なんとかなるかなって」
----------やっぱり女って・・・いやこの女怖い!
「・・・ねぇ、やっぱりえっちしない?
初めてはあげられなかったけど、その分いっぱいきもちよくするから!」
「いや無理。何人といたした解らない女とそういうことするの、俺は無理」
「男の子はよしくんだけだよ!!・・・あっ」
つまりお前男1人女複数ではそういう事やってたのか。
余計嫌だよ。
その後、服を着てトボトボと帰っていくほのかを見送った後で、
部屋に戻ってクローゼットを開く。
身体を小さく丸めたテツくんがいた。
「・・・女の子って怖いですね」
うん、俺もそう思う。
それとテツくんはクローゼットの中で俺たちの会話を録音していたようで、
何かあったときのために、と、
「でも藤島さんの主張がなんだかちぐはぐだったのは気になりますね
・・・まぁそれでも浮気女なのには変わらないのですが・・・・
うーん・・・」
それは俺も少し思った。
・・・まぁ女心なんて男の俺たちにはわかりようもないんだけどさ。
女心と秋の空ってことかなーと思いつつテツくんを見送った。
その日の夜、今日のほのかとの会話のデータを送ってくれた。
テツくんほんと有能。ムラニカポイントあげちゃう。




