追想3.
中学三年生になった頃、ほのかと隣町に買い物に出かけたことがあった。
どうしても隣町のショップにしかないアイテムが欲しいから、付き合ってほしいと頼まれたのだ。
隣町は治安が悪く、
あまり行かないようにと学校でもいわれていたのだが・・・。
どうしてもと譲らないほのかに根負けする形で、
俺が付き添って買い物にいくことになった。
その日は久我斗の兄貴に鍛錬はお休みにしてもらって、
一日ほのかと隣町デートに繰り出した。
デート、デートとウッキウキなほのかを横に、
俺はデート中も注意深く周囲に気を配っていた。
昼間というのと、
メインストリートということで見る限り怪しい奴や危険そうな奴も見えなかったので、
ほのかとのデートを楽しんだ。
ほのかと昼ごはんを食べた後、
ほのかの目当てのショップの中を一緒に見て、
いくつかのアイテムに絞ったが決めかねていた。
俺も意見を求められたので感じるままに言って、
そこからほのかはうーん、うーんとさらに商品を絞ったが、
決めあぐねて長考モードに入った。
買い物のときにこうなるとほのかは中々動けず、
そしてそれを自覚しているため、
外で少し時間を潰してきてほしいと言われてしまった。
店員さんに声をかけて外に出れば、
俄かにあたたかくなりはじめて日差しが熱い。
2人分の飲み物でも買ってきておくかな、
と少し移動しようとしたところで、
「ぐあああっ」という悲鳴と、何かがぶつかったり転がるような音がした。
周囲を視れば俺意外に気づいている様子はない。
何かあったのならいけない、と思い、
少し悩んだがほのかに
「少し離れるから店の中か日陰でまっていてくれ」
と手早くメッセージをいれて音の下路地裏へと急いだ。
路地を歩いていくとフェンスにかこまれた広い空間に出た。
そこではいかにもなガラの悪い不良が、
地面に倒れ伏した赤髪の男の子を踏みつけている。
「なんだお前?あぁ、お前もこいつをいたぶりたくて集まったたクチか?」
そういいながら倒れた男の子をグリグリと踵で踏みにじるガラの悪い男。
「うあああっ・・・」
痛みに悲鳴を上げる男の子。
-----------小学生の頃の、あの女の子の事を思い出す。
「おい、お前ら・・・その男の子を離せ」
そう言うと、「なんだコラ」「スッゾコラ」と途端に敵意を向けてくる不良たち。
数は5人。
数が多いなぁ、考え無しだったかと思いつつ構えた。
「ザッケンナコラー!」
そういいながら殴りかかってきた男の拳を、あえて受ける。
勿論当たる瞬間に当たるところに気を集中してダメージは最小限に。
「先に手を出したのはアンタ達だからな」
俺のそんな言葉に、やるきマンマンという様子の不良たち。
「何・・・やってんだ!逃げろ!ただじゃすまなねぇぞ!」
赤髪の男の子がこちらに向かって叫んでいる。
ここでこの子を見捨てて逃げるような男じゃ、
ほのかの隣にはいられないのだ!
「黙って見ていろ!!」
そんな俺の言葉に、黙ってこちらを見つめる少年。
素直なのはいいことだよ!!
一番近い距離にいる不良が殴りかかってきた。
見切って回避とか無理なんで普通に腹パンを喰らう。
兄貴と特訓してる気の流れのコントロールで、
受けるダメージ減らしてなかったら悶絶してるよね、これ・・・。
久我斗兄貴に鍛えられて、
俺だってそこら辺の不良に負けない程度にはなっていると思っていたけれど、
単純に戦いなれている連中相手だとそんなことは無かった。
つまり俺は相手の攻撃を喰らうより先に速攻で攻撃を連打して、
全員を押し切る必要があるのだ。
殴られると痛いからどこまで我慢できるか正直わからないし、
いまだってこれ結構やせ我慢してるからね!
そして俺には兄貴のロジカルバッドスピードのような、
ルーティンからの強化や技がなにかあるわけでもない。
どうやってこいつらをやっつけて、
あの子を助けて、
それでもってほのかのところに速やかに戻るかなぁ、
やることが・・・多い・・・!
などと考えていたところで、昨日、明日菜と遊んでいたゲームキャラが脳裏に閃いた。
ロボット物のアクションゲームだ。
あれは確か・・・四神をモチーフにした技を使うロボだ。
サンキュー明日菜!持ちキャラを借りるぜ!
「失せろ。この世界からな」
そう言って握った拳を構える。
左右に両腕を広げて気を集中、その両手を中央で合わせて叫ぶ。
「青龍砲!」
掌から見えない拳圧のような衝撃波が飛んでいく。
------あ、すごい本当に出た!
兄貴が言ってるのってこういうことか・・・
「何ィーーーー?!」
不良の一人にそれが命中し、吹き飛んで意識を失った。
「妙な真似しやがって・・・ぶちのめしてやるァ!」
転がっていたパイプを手に殴りかかってくる不良。
でやぁっ、とパイプを受け止めてはじくと、不良が驚き硬直する。
そうだよね、鉄パイプを掴んではじくとか割と人間業じゃないと思う。
正直まぐれですね。
ワイも・・・ワイトもそう思います。
両手に気を集中して、叫ぶ。
「行くぞっ!白虎爪!」
腹を連打連打で滅多打ちする。右、左、右、左、「でやぁっ!」
拳を振りぬけば、そのままごろごろと地面を転がって動かなくなる不良。
「う、動くんじゃねぇ!」
続けざまに2人も仲間をやられて、
不良の一人が赤髪の男の子に刃物を突き付けてこちらを脅してくる。
困ったら人質かぁ・・・。
そのまま俺は両腕を上げる。
一見すると降参のポーズに見えるだろう。
脅している不良の気が緩んだその一瞬。
「コノシュンカンヲマッテイタンダー!」
即座に右こぶしを握りしめ、左腕を前に、右腕を後ろに引く。
そのまま肩越しに右こぶしを---砲丸投げでもするかのように押し出し、叫ぶ。
「玄武徹甲弾!----貫けェ!」
拳から出た衝撃波がドリルのように旋回して、
刃物を持った不良だけを吹き飛ばして壁にめり込ませた。
なんだよ・・・結構、当たんじゃねぇか・・・
これで不良は残る2人。
「・・・クソッ、仲間を呼ぶぞ!」
脱兎のごとく逃げ出そうとした1人に、すかさず跳躍して跳びかかる。
「跳朱雀・・・貴様に見切れるか!!」
跳びかかって蹴りあげ、そのまま右から、左から、次々に蹴りをお見舞いしてやる。
くふっ、と空気が抜ける音を吐きだして、その不良も崩れ落ちた。
これで残るはあと一人である。
チラリと時計を見ればほのかと別れてから結構な時間がたっている。
そろそろ店を出ているかもしれない。
あと一人もさっさとやっつけて戻らなくては!
そう思いつつ後はどんな技を使っていたかな・・・と記憶をたどる。
たしか・・・こうだ!
「悪いがデートの途中なんだ。
極め技でさっさと終わらせてもらうぞ----全力全開!」
両腕に気力と意識を集中すると、拳がなんかすごく熱い。
ちょっとテンション上がってるからだろうか
やっぱり四神モチーフとかかっこいいよね・・・俺は厨二病じゃないけどそう思います。
とう、と飛び上がって左右の拳を連打すると、
拳から多分拳圧的な何かが飛んでいき不良の身体を次々と滅多打ちにする。
そのまま懐に着地し、殴り飛ばす。
左右の拳で連続して殴りつけ、時々蹴りも織り交ぜる。
「モード麒麟!!でやぁ!」
残った気力を両腕に集中してアッパーの要領で下から顎を打ち抜いた。
身体を半回転させ、落下する不良と、赤髪の少年に背中を向けて着地する。
ビシッ、とゲームでやってた技みたいにキメの構えを取れば、
ちょうど同じタイミングで不良が地面に転がった。
タイミングばっちり!やったぜ明日菜ァ!
・・・あれ、ところで必殺技ってモード麒麟であってたっけ?
間違えたかな・・・ま、いっか。この場限りのアドリブだし。
・・・誰かが真似するわけでもないしなんでもいいよな!
「少年、今のうちにここを離れるんだな」
-----------だってほのかがまってるかもしれないから俺もさっさとここを離れたい!
肩越しに振り返って見れば、
少年はなんだか妙にキラキラした瞳で俺を見ていた。
「すげぇ・・強ぇ・・・かっけえ・・・!」
よせやい、照れる---と思ったけど、ここはひとつ、
大人な先輩(?)として恰好つけておこう。
「俺より強い奴は幾らでもいる。
お前もこんな連中に負けないくらい強くなればいい」
そう言って(デートに速やかに戻るべく)走り出した俺に、
後ろから少年の叫びが聞こえる。
「あんた、一体何者なんだ?!名前を教えてくれよ!」
素直に名乗ろうかと思ったけれど、
ここでもし名乗ってあとで傷害だなんだってなったら大変だ・・・
先に手を出したのは不良たちで、
この子を助けるためでやむを得なかったとはいえ面倒ごとはイヤだぞ。
そういう所が俺は小市民で小心者なんだよ!すまん名も知らぬ少年!
「俺のことはライフゲイン、そう呼べ」
さっき技を借りたゲームのキャラの名前を名乗ってそのままダッシュで走り去った。
「ライフゲインの兄貴・・・!青龍砲、白虎爪、玄武徹甲弾、跳朱雀、
それに極め技のモード麒麟・・・俺も、いつかあんな風に・・・」
なにやら少年の声が背中越しに聞こえたが、
今の俺に振り返ってる余裕はないのだ。
待っていてくれほのか!
またせてごめんほのか!!
今愛しの正吉がそちらに向かいます!!!
そういってほのかのいたショップの前に戻ると、
見知らぬ男子と談笑しているほのかがいた。
ん?お互いスマホをポケットに戻していたような・・・?
こちらを見て、「しょうちゃん!」とこえをあげたほのかと、
会釈して去っていく男子。
なんだかやけにイケメンなやつだったなぁ・・・。
去り際の笑みがなんだかイヤらしくて癪に障る野郎だ。
聞けば、しょうちゃんを待ってる間に、道を聞かれたの、というので、
そうかそうかえらいぞほのか~~~~~といっぱい褒めたりラブラブした。
なんだかんだでほのかといっぱい一緒に入れて楽しいデートだったんだよな!
ちなみに次の日、俺は全身筋肉痛で布団から起き上がれなかった。
家でウンウンうなっていると何故か久我斗兄貴がきた。
お前、気の操作をして喧嘩してきただろ、と言われたけど、なんか普通にバレてるわ。
半人前で無茶したからだ、との事だが
愛しの彼女を護るためなら無理無茶くらい仕方無ェよなぁ!と笑ってた。
もうそんな真似するなよ、と差し入れのエナドリを渡して去っていく兄貴。
どうやら兄貴は俺がほのかを護るために喧嘩してきたのだと思い込んでいるらしい。
会話の勢いが早すぎて訂正できなかったがまぁいいか。
とりあえず無理すると反動がやばいのでこういうことはこれっきりにしようと思った。
バトルものに耐えきれるほど俺の身体丈夫じゃなかったわ・・・。
その後心配したほのかと明日菜がお見舞いに来てくれて、
2人の作ったご飯を食べたりしながら賑やかに過ごしたのであった。
なんとなくほのかに道を聞いていた男子の事が気になったのと、
あとあの赤髪の男の子はあの後大丈夫だったのかなぁ、
と思ったり思わなかったり。