追想1.
俺とほのかの両親は、学生時代からの友人同士だった。
だから、俺とほのかが物心ついた時には一緒にいるのが当たり前になっていた。
俺が幼稚園だったころの話。
幼稚園では毎月誕生会というものがあり、
そこでは毎月初めにその月に生まれた子の誕生パーティーをしていた。
ホールの雛壇に横一列に並んだ誕生月の子供に、
プレゼントが順番に渡されて、
他の皆が拍手とお歌でおいわいをするというものだ。
当然それは俺がお祝いされる側になったこともある。
その時俺は向かって右端--幼稚園の先生たちから一番遠い一番奥の位置----に立っていて、何の間違いか俺はプレゼントを渡すのを忘れられてしまっていた。
俺はなぜ自分がプレゼントがないのか、わからなかった。
そしてプレゼントを渡されないまま始まる拍手とお歌に、
自分がプレゼントをもらえないのだと思い、声をあげて泣いた。
俺のそんな様子に、拍手とお歌が中断される。
ざわざわとざわめくお友達の皆と先生たちをぼんやりと感じながら、
しゃがみこんで声を上げて泣きいた。
ただただ悲しかったのは高校生になった今
でも覚えているし、
今なら先生たちのミスで、渡し漏れをしたのだろう、と理解できるが
当時の俺にそんなことがわかることもなかった。
自分はお祝いしてもらえないのだと思い、ただただ、悲しかった。
そんな俺の様子に一番最初に気づいたのがほのかだった。
“みんな”の中から駆け出してきて、俺を抱きしめながら、しょうちゃん、泣かないでしょうちゃんと、俺に声をかけながら、俺以上の声でわんわんと声をあげて泣いていた。
そんな俺たちの様子に、ここで先生たちも事態を理解したのだろうか。
その後に確か先生があやまりながら渡し忘れたプレゼントをわたしにきたことなどはおぼろげな記憶だけれども。
-----------でもその時の、俺を抱きしめて俺以上に泣くほのかのやさしさが、
ただただあたたかくて、嬉しかったことを覚えている。
俺はきっと、この時からほのかに惹かれていたんだろう。
小学校に上ったころの話だ。
とても小柄で華奢な、クラスの女の子と仲良くなった。
薄灰色の髪をしたその子は、物静かでいつも自信なさそうにしていたけど、とてもやさしい子だった。
みんなが嫌がった飼育委員を率先してやってくれて、いつも動物の面倒をよく見ていた。
話しかけると、おどおどと、恥ずかしそうに、ゆっくりと話していたけれども、それでも話しかければはにかむような笑顔をみせてくれる子だった。
だが小学生というのは時に残酷で、もの善悪が判らないからこそ鈍感な悪意を見せる。
その女の子の髪色や、何を言ってもおどおどして反論してこない態度に、クラスの一部のがいじめていたのだ。
俺がそれに気づいたのは、ほのかと歩く学校の帰り道で忘れ物に気づいて、先にほのかに帰ってもらってUターンしてとりに戻ったときだ。
なんだか教室が騒がしいな、と思いながら入ると、数人の男子と女子がその子を取り囲んで、髪を引っ張り、その子のランドセルを踏みつけたりしていた。
・・・何やってるんだよ・・・お前ら
その光景に驚き、声を失った。
----おうしょうきち、おまえもまざれよ。たのしいぞ
男子の一人がそんな事を言っているようなことが聞こえた。
いじめているやつらの視線が俺に注がれて、みんなの視線がその子から外れる。
その子と視線が合った。
-------だいじょうぶだよ
そんな口の動きを、みる。
困ったように眉尻を下げて笑う。
今この子は、いじめられている自分より、
巻き込まれつつある俺のことを心配したのだと、理解した。
-----------理解してしまった。
「っざけんなよお前らあああああああああ!!」
そこからはもう、酷い有様だった。
ただただその子を助けなきゃと思い、手近な男子にとびかかり殴り倒した後、女の子を羽交い絞めしていた女子を男女平等パンチ。
ついでに驚いて固まっている男子の股間を蹴りつけて悶絶させて突き飛ばし、ランドセルを踏みつけている女子を張り倒す。
いじめていた男子も女子も、豪快に机やイスをなぎ倒して転倒する。
「今のうちに行って!!」
そう叫んで、ランドセルを放り投げて逃げるように促したあたりで最初に殴り倒した男子が起き上がって組み付いてきたんだ。
そこからは多勢に無勢、数に負けて男子と女子に馬乗りになられて殴られ蹴られ、
こちらも負けずにやり返して大騒動。
暫くして教師を連れたその子が教室に戻ってきて、
俺たちは教師に取り押さえられた。
その後、その子のいじめが発覚したため、
俺はいじめられている女の子を助けたということで、軽い注意ですんだ。
だがいじめていた男子と女子は両親を呼ばれ、それぞれが激しく怒られていた。
俺も両親から怒られた・・・女の子を助けること自体は良い事をしたと褒められた上で、
安易に手を出すんじゃない----やるなら相手に先に手を出させたうえでやれ、と。
ついでにほのかにも怒られた。
ボコボコにはれあがった顔をみて、ううっ、と泣きながら
「どうして一人でするの!私もいっしょにやったのに」と。
俺のきずをみて、自分がそうされた以上に悲しみ、
痛そうにしているほのかに苦笑したものだ。
結局そのいじめ問題は大事になり、その女の子は家の都合もあり引っ越すことになった。
お別れの最後の日、
泣きながら感謝の気持ちをつづった手紙を渡してくれたっけな。
飼育委員をしてくれていたから、ウサギの髪飾りをプレゼントしたら、
両手で包み込むようにぎゅっと握り
ずっと大事にするねと笑ってくれた。
いつものはにかむような笑みではない、満面の笑顔は、ひまわりみたいで素敵なと思った。
「いつか、きっと、また会えるよね・・・正吉くん」
その子は去り際、車から顔を出し、涙をぽろぽろこぼしながら、それでも笑顔でいつまでも手を振っていた。
でも問題はそこから先だった。
転校していった女子をいじめていたグループが、今度は俺をいじめはじめたのだ。




