10.
次の日の朝、通学路にほのかの姿はなかった。遅れていくから、というメッセージが入ってきたので、了解、と返して登校する。
今日は一人で登校だな、と思っていたら、途中で明日菜と一緒になった。
「おふぁよー、村正ァー」
ふあああ・・・とあくびをしながら挨拶してくる明日菜。
「今日も眠そうだな、昨日はゲームしてたのか?」
「ホゲモンジョイントー。あがったりさがったり、野良はいまいち安定しないんだよねぇ」
ここ最近俺のことで気を使わせてしまっているな、と感じていたのでゲームしていることを聞いて少し安心した。・・・安心の指標が目の下にクマできるぐらいに徹ゲーできてるかどうかなのが良いのか悪いのかわからないがっ!
「ほのかは遅刻するって。・・・今日ほのかと話してみるよ」
そう言って、前を向いて歩きながら明日菜に言う。
「・・・大丈夫?」
心配そうな明日菜の声に、「大丈夫。・・・楽勝さ!」と返して軽く笑う。
「それコックピットにサーベルをシューッ!されてミンチよりひどくなるやつだぞ村正ァ!」
「明日菜、いいかい、よく聞いてくれ。この包みの中には、俺の証言を収めたテープや---」
「死亡フラグを立てるんじゃない!そういうところだぞ村正ァーーー!」
そんな風に、ポッケの中でウォー的なやり取りをしつつ、学校に向かうのだった。
朝から明日菜と会話が出来て、気分も少し晴れたな
・・・もしかして、明日菜はそのために登校時間を合わせてきてくれたのか?
------そんな事考えるのは考えすぎだろうか
ざわ・・・
ざわ・・・・ざわ・・・・
昼休み、俺を訪ねてきたほのかを前に、俺は言葉を失って固まっていた。
俺だけじゃない、隣の席では明日菜が、他の生徒もだ。
そこにいたのは、すっかり雰囲気の変った--------整った顔立ちだけは相変わらず可愛らしいが、一昨日までの見た目からガラリと姿が変わった、藤島ほのかの姿に。
美しかった黒髪は金色に染められ、パーマをかけられてた。
いつもぴっちりと着こなされていた制服は胸元まで開かれており、
かなり短くなったスカートはきわどいところまで見えそうになっている。
耳元にはキラリ、と高そうな宝石のピアスまでつけている。
いつもナチュラルメイクだったのが・・・今では白ギャルといった雰囲気のかなり派手な化粧。
「おっはよー、しょうちゃん!」
それなのに、そんな姿をしているのに------いつもと変わらないように俺に話しかけてくるほのか。
「ほのか・・・だよな?」
恐る恐る確認する、というように、震える声で答える俺。
「えぇ?そうだよぉ。何言ってるのしょうちゃん」
なんでそんな事を聞くの?といわないばかりに、当たり前、といった様子で返してくるほのか。
こちらを見上げてくる表情はかわらないのに、
なぜだろうか、ほのかがもうほのかじゃないように感じる。
それは見た目が変わったからではなく-----もっと根底にある何かで。
「・・・ほのか、何なのその姿」
何と言えばいいのかわからない俺と、
どうしたんだろうと俺を見るほのかに、拉致が明かないと思ったのか----明日菜が隣から助け船を出してくれた。
-------------震える声で。
「えへへっ、可愛いでしょ~?
どう、しょうちゃん!ますますほのかが好きになっちゃった?」
そういって胸の谷間を強調するようにみせつけてくるほのか。
ダレダ
・・・・オマエハ、ダレダ
俺の知っている藤島ほのかは、こんな風に肌を露出して男を誘惑するような子ではなかった。
こんな風に男に媚びる子ではなかった。
こんな、こんな、こんな--------------こんな女を、俺は、知らない。
遠くで教師たちがバタバタと声を挙げながら走ってくる声が聞こえた。
「村正君、藤島さん。教室を離れてどこか先生たちのいないところへ移動した方がいいです。
これ第二文芸部の部室の鍵です、井上さんもついていってあげてください。
多分先生たちの目的は藤島さんです、そんな姿では先生たちも反応しますから」
傍らからテツくんの声がした。
テツくんも俺たちの会話を聞いていたみたいだ。
「こちらに向かっている先生たちは僕が誤魔化しておきます----早く」
そういうと俺に鍵を投げて渡した後、明日菜に目配せするテツくん。
「・・・わかった。ほらいくよほのか!・・・呆けてないの村正ァ!」
立ち上がり、ほのかと、俺の手を取って駆け出す明日菜。
渡された鍵には“第二文芸部部室”と書かれていた。
なになに?と状況を飲み込めていないほのかと、
口を噤んだまま堪えている俺の手を引っ張り、
校舎のはずれにある第二文芸部の部室へと駆け込む俺たち。
幸い、道中教師や生徒達に見つかることは無かった。
「どうしたの明日菜ちゃん、急に走り出して。びっくりしちゃったよぉ」
息を整えながら胸元のボタンをさらに一つ外すほのか。
俺とほのかを先に教室に押し込み、最後に教室に入るとバタン、とドアを閉める明日菜。
こちらに背中を向けたまま、してドアに額をつけるようにして、息を吐いている。
「・・・あ、わかったぁ。しょうちゃんも、私としたいんでしょう?
・・・ふふっ、しょうちゃんも男の子だもんねぇ。
ここなら思う存分-----あ、そっか3人でするのぉ?」
そう、それがなんでもないことのように言うほのかの様子に、俺は理解ってしまった。
俺の目の前にいるこの子はもう、俺の知っている、俺が愛した藤島ほのかではないのだと。
「ほのかっ!!」
こちらに背を向けたままの姿で明日菜が一喝する。
「きゃっ!?どうしたの明日菜ちゃん、
そんなに怒って・・・怖いよぉ」
ビクリ、と身体を震わせるほのか。
やめろよ・・・そんな所だけ、ほのかと同じような動きを、仕草をしないでくれよ・・・。
けれど、明日菜の声で、俺は自分の意識を呼び戻した。
「・・・ボク、外にいるから」
そう言って部屋を出る明日菜。
扉が閉まる音がして、部屋には俺とほのかの2人だけになる。
ここから先は、恋人の----いや、恋人だった俺が、話さなければいけない事だから。
「なぁ、ほのか。どうしてそんな恰好をしてるんだ?」
目は逸らさない。
俺はほのかに向き合わなければいけない。
「へへっ、かわいいでしょう?
みんなかわいいってほめてくれたんだぁ」
---------みんなって誰だよ
そういって掌をパタパタさせながらアピールするほのかだが、俺の表情は変わらない。
そんな俺の様子に、流石におかしいと思ったのか、「どうしたの?怒ってるの?」と聞いてくるほのか。
「-----------なぁ、ほのか。話をしよう」