SIDEまもり:おねえちゃんはティーチャー略しておねティ
私、知立まもりは教育実習として、生まれ故郷の母校へ帰ってきた。
そこで昔、弟のように可愛がっていた近所の男の子----村田正吉くん----と再会したときは、喜びのあまりつい、抱きしめてしまったりした・・・ううっ、だめだめこんなんじゃ教師志望なんていえない・・・反省しなきゃ。
私が知っている正吉くんは、まもねーちゃん、まもねーちゃんと私の後をトコトコついてきてとてもかわいかった。
だが、再会した彼は逞しく成長していて、
顔立ちもすっきりと男前になっていた。
あのころみたいに抱きしめた時に、
あのころとは違う逞しさを感じて、すこしドキッとしてしまう。
・・・だめだめ、私はおねえちゃんなんだから。
それに、あの子の隣には、今でも幼馴染の女の子のほのかちゃんがいる。
2人はどこにいくにも一緒で、よく手を繋いで歩いていた。
そんな2人を微笑ましく見守っていたのだが、
親の転勤で引っ越すことになったときには悲しくててわんわんと泣いたっけ。
------私が引っ越す前の最期の日にしょうちゃんが渡してくれた、
今までの感謝にと指先を傷だらけにしながらつくってくれたもの・・・
いびつなアップリケつきのハンカチを、今でも大切に持っているのは、ナイショ。
そんな私だが、今は動きやすい服に着替えて夜の繁華街で人を探している。
それは藤島ほのかちゃん。
正吉君の幼馴染の恋人で、私にとっても妹みたいな女の子だ。
学校からの帰り道、黒髪の綺麗な女の子が誰かと電話をしながら歩いているのを見かけた。
それは、正吉君と連絡先を交換したとき、
待ち受け画面に映っていた女の子----ほのかちゃん----だった。
制服を着てはいるけれど、今日ほのかちゃんは学校を休んでいると正吉君が言っていたはず。
それに誰かと電話をしているほのかちゃんに気づいたのだけれど、
その内容がどうしても気になったのだ。
「---しょうちゃんにはバレてないから大丈夫だよ、今日もいっぱいしてほしいな」
そんな事を言いながら、まるで恋する少女のような顔で誰かに電話をするほのかちゃん。
・・・まさか、二股?・・・浮気?
そんなのだめだめ、恋人がいるのにそんなこと許されないわ。
それにまだ高校生なのにそんな、ふ、ふしだらなことなんて・・・見逃せない!
そういうのは結婚してからするものでしょう?!
そう思い、帰宅した後に着替えた私は、
ほのかちゃんの電話から漏れ聞こえた会話から場所と時間を推測して商店街を歩いていた。
人通りは少なく、ガラの悪そうな人たちがちらちらとこちらを見ている。
・・・ううっ、ちょっと怖い。
そうして商店街を奥へ進むほど様相はシャッター街になっていき、
気がつけば私の周りを何人もの“いかにも”な男の人が取り囲んでいた。
「おほーっゲロマブいおねーちゃんじゃんラッキー」
「へへっ、俺たちと遊んでくれよなぁ」
「まずは俺からやらせてもらうぜ」
「ふざけんなお前の後なんて汚くてやってられねえ俺が先だ」
そういいつつじりじりとにじり寄ってくる男の人たちに、
迂闊だった・・・と逃げ道を探すが、逃げ道をふさぐように回り込まれてしまう。
そんな視線の片隅で、やけに顔立ちの整った男の子-----とはいえ、正吉君に感じたようなドキドキは感じない、むしろ生理的にうけつけない、悪寒のような、近寄りたくないような嫌悪感を感じる-------------と、金の長髪の女の子がいた。耳にはピアスをあけ、スカートを短くした女の子は・・・あれは・・・ほのか、ちゃん?
胸元も大きく開け、すっかり印象が変わっているがほのかちゃんのような、気がする。
「ほの-----」
ほのかちゃん、と言おうとしたところで、後ろから延ばされた腕に口をふさがれる。
・・・しまった・・・!
金髪の女の子は、隣を歩く男に胸元に手を差し入れられても身を捩りながらも受け入れて、
しなだれかかるようにして寄り添って歩いていく。
そんな光景が現実に思えない混乱と、襲われているという恐怖に涙が出る。
--------誰か、助けて-------正吉君-----!
「おっと、そこまでにしておきなァ」
そんな声に、私も、周囲の男たちも一斉に声のした方を向いた。
派手なピンク色一色のサングラスに、茶色く染めた髪の毛を後ろに流して固めている。
青色のスーツは着崩されて、
ポケットに両手を突っ込みながらこっちをサングラスごしに見ている。
・・・・いかにもなんだか不良といった印象の男の人がそこにいた。
年のころは私と同じ位だろうか?
でも、なぜだろう、今私を囲っている人たちとは、雰囲気が違うように感じる。
誰だろう・・・どこかで見たことがあるような、ないような。
「なんだぁ、お前ェ・・・」
そういって周囲にいた男の人の一人が、
サングラスの男の人に近寄って行った・・・と思うのだけれど、
突然、くたっと地面に崩れ落ちた。
「何しやがったテ----あべしっ」
「スッゾコラ-----ひでぶっ」
他の男の人も次々と殴りかかったり、
近くにあったバールのようなもので殴りかかったと思うのだけれど、
こちらに向かって歩いてくるサングラスの男の人の近くまで行くと次々と地面に倒れていく。
その様子に、私を捕まえていた男の人が怯えて、私を離す。
「そ・・・そうか、お前もこの女が欲しいんだな?
い、いいぜ、譲るぜ・・・だから・・・俺は見逃してくれよな、な?」
そういって震えながら、私を盾にするようにして後ずさる男。
「もう終わってる。悪いな速すぎて」
そういうと、あがっ、と言って私の後ろで男が崩れ落ちていた。
「・・・助けてくれたんですか?」
恐る恐る、という様子で聞くと、
そのサングラスの男の人はサングラスをはね上げて、切れ長の瞳でこちらを見た。
「えぇ、そうです。私は井上久我斗故合ってこの街の自警団のようなものをしているしがない大学生ですそして貴女は俺の弟分の村田正吉と親しくいていたお姉さんであり今は教育実習生そして俺の中学校の同級生でもある-------知立みのりさん、ですね?」
凄い速さでまくしたてる男の人だがとりあえず、
言うべきお礼は言わないと。
「助けていただきありがとうございます。
それと私は知立まもり、です。
あと同級生と言われてもごめんなさい記憶にないです」
「ハハッおっとこれは手厳しいしかし再会と言っても一方が認識をしていないということはすなわちこれは運命の出会いと言っては過言ではないと思いませんか私はそう思いますどうですかみもりさん!」
「まもりです!」
「失礼、私、人の名前を覚えるのがどうも苦手で----とりあえず、安全なところまでお送りしますよ、何せ今のこの街の夜は、------随分と物騒なので」
そういいながら踵を返す、井上さん。
・・・信じていいのかな?
悪い人ではなさそうだけれども・・・。
あの金髪の女の子は、いなくなっていた。
やっぱりあれはほのかちゃんではなく、私の気のせいだったのかしら。
「ッキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!!!!」
「ハッハッハッハッハー!どうですかこのスピードこのドライビングテクニック素晴らしいと思いませんかなぜなら素早く移動できるということは人生の無駄を減らすという事でありそれはすなわち有限の人生において行える行動が増えるという事つまり人生を有意義にすごすことができるのだと私は思うからですなもりさん!!」
信じられない!信じられない!!信じられない!!!
ピンク色の派手なスポーツカーでわけのわからないスピードで道を走っている。
これ法定速度守ってるの?!?!?!
「感動に言葉もありませんか光栄ですとても良い気分です待っていてくださいもうすぐです名残惜しいですがさもりさんのご自宅へと寸分の狂い無く今到着です時間は3分12秒!アァァ・・・また世界を縮めてしまった・・・」
違います・・・右へ左へ揺られすぎて何も言葉が言えないだけです・・・
とりあえずお礼を言って車を降りる。
「それではおやすみなさい。いいですね、夜に出歩くのは自重してください。いつも私が助けて差し上げられるというわけではありませんのでそれではおやすみなさい良い夢をなもりさん」
「・・・まもりです!」
ブロロロ、とエンジン音をたてて去っていく車の姿を見送って、
ウプッとこみあげてくる嘔吐感に負けないようにしながら帰宅した。
玄関を超えたところで我慢できず流し台で吐いた。
こんな姿、正吉君には見せられないよぉ・・・。
えろえろえろ、と口から虹をはやしていると、お父様からの電話があった。
故郷での教育実習はどうかという私への心配に、
いい加減子ども扱いは辞めてほしいなぁと思いながら答えていると、
ふと、思い出したようにお父様が零した。
隣町で怪しいお金の動きがあり、政治家をしているお爺様や、
司法を取り締まる役職にある大伯父様が尻尾を掴もうとしていると。
隣町を拠点にしているタレント一家を中心に、
不穏な資金の流れがあるから近寄るなとの事だった。
・・・ごめんなさいお父様、実は今さっきまで隣町にいました、
と心の中で謝りつつ電話を切った。
------------うぅん。
さっき見たあの金髪の女の子が、気になる。
・・・この胸騒ぎ、何だろう。
明日は何かが起きてしまうような、気がする
結局その日は一睡もできなかった。