8.
結局、夜道を帰すのもどうかということで明日菜も家に泊めることになった。
明日菜の家に電話をかけたら、
帰ってきていた明日菜のお兄さん・・・久我斗兄貴が電話に出た。
「お前なら間違いを起こさないから任せた!」と言われてしまった。
当然だ、俺はこうみえて紳士なのだ・・・自分で言っちゃうくらいに紳士だよ、本当だよ。
パジャマがなかったので明日菜には俺の予備のジャージを貸すと、
「スンスン・・・うわっめっちゃ村正のにおいがするぞ村正ァ!・・・クンクン・・・クンクンクンクンクンカクンカ」
とやたらクンクンクンクンと服の匂いを嗅ぐので、
そんなに体臭が臭うのかとちょっと対策を考えたのは秘密だ
俺の部屋を明日菜に貸して、
テツくんと一階のリビングで寝ることにした。
ちゃっかりお泊りセットと着替えを持ち込んでるテツくんの行動力はやっぱりすごいなぁ・・・と思いつつ床に布団を2つ並べて、明かりを消す。
「あまり思い悩まないでくださいね、村正君」
こちらに背中を向けながら寝転がっているテツくんがそう言った。
「・・・ありがとう、俺は友達に恵まれたのが救いだなぁ」
俺のそんな言葉に、ごろん、とテツくんがこちらを向く。
「それは違いますよ村正君。君のまわり沢山の人がいるのは、
君の今までの行いの積み重ねです。
君が助けてきた人たちは、
これから君が困ったときにきっと力を貸してくれます。それは勿論僕も。
去年、幼馴染にBSSで心を弄ばれた挙句に笑いものにされて、
挫けそうになったのを助けてくれた事はこれから先の人生でも、ずっと、きっと忘れません。
君は僕の恩人で、いつかそうなりたいと思う僕の憧れなんですから」
じっとこっちをみているテツくんが、くすっ、と笑った。
貴重なテツくんの笑顔にちょっとドキツとしたぞ・・・。
去年の学園祭で数多の男子を陥落させた謎の美少女メイド・アキちゃんがこのテツくんなのを忘れていた。
ドキッとしたのも変な意味じゃないよ、本当だよ?
朝起きると、テツくんが3人分の朝食を用意してくれた・・すごく美味しそう!
テツくんを手伝い朝食の準備をしていると、あくびをしながら明日菜がおきてきたので、明日菜を交えてご飯を食べた。朝食はとっても美味しかったです!
身支度を整えて3人で家を出る。
「・・・ああああー!しょうちゃんの家から明日菜ちゃんが一緒に?!
う、浮気だぁぁぁ!しょうちゃんの浮気者!裏切り者!最低ーーーーー!!」
--------------そして玄関先でほのかと鉢合わせた。
涙目になりながら俺と明日菜を指さし、
浮気だ、許さない、地獄へ落ちろー!とわんわん叫ぶほのか。
「落ち着いてください藤島さん、僕も一緒です」
唐突に存在感をアピールするテツくん。
「あれれ、テツくんもいるの??」
そんなテツくんの様子に、
スンッ・・・と鼻をすすりながら騒ぐのを止めるほのか。
「はい。3人でオンラインゲームをやっているのですが、
大会の予選だったのでラグを減らすべく、
一番環境のいい村正君の家に集まって試合をしていたんです。
勿論、寝る時は井上さんは2階、
僕と村正君は一階で寝たので藤島さんが心配するようなことはなかったですよ」
努めて冷静に・・・しれっとその場を誤魔化すテツくん。
微妙に嘘を言っているわけではないのが上手だなぁ、と思いながらそうなんだと頷く。
「・・・なんぁ、びっくりしたよぉ。
だから昨日も返信がなかったんだねぇ。
大会がなら仕方がないけど、
幼馴染で大切な彼女を放っておくなんてよくないよぉ。
反省してよね!今日はとくべつに許してあげるけど!」
そういってふくれっ面をするほのか。
どうしてもぎこちない対応になり、おお、ああ、ともどもごと言っているとほのかが怪訝そうな顔をしている。
「ごめんねほのか、大事な彼氏を酷使させちゃって。
・・・頭オンゲーマーになってるのよ、エナドリがぶ飲みさせたから今日はこんなかんじかも。
大会で優勝したらその時はみんなでぱーっと打ち上げに繰り出そうよ、ねぇ村正」
明日菜に脇を小突かれ、「そ、そうなんだよ!勝ったらみんなでパーッとお祝いしようぜ」と2人の嘘に乗っかりその場をごまかした。
いけない、これじゃあどこかでボロが出てしまいそうだ・・・と反省するのだった。
学校に向かう途中、
寄る所があるからと別の道を歩いていったほのかと別れて、
明日菜、テツくんと歩いていると村雨とあった。
フルネームは村田氷雨といい、
俺とは一年の頃のクラスメートだ。
同じ村田かぶりで、俺が村正、彼が村雨というあだ名をつけられることになった片割れで、
2年に進級してクラスは別れたけれども、今でも交友は続いている。
一年の頃につけられたあだ名が二年になっても使い続けられているのでそういった意味でも縁がある友達なのだ。
クウォーターの村雨は、
灰色がかった髪を目のギリギリまで伸ばし、後ろや横に髪を流して整えた精悍な顔立ちをしている。
そんな彼がいつも背負っている竹刀袋の中には愛用の木刀が入っており、
2年にして剣道部の部長代理を務める凄腕のサムライなのだ。
寡黙だが正義感の強い彼は、
悪漢に襲われたり絡まれた子を男女問わず幾度となく助けたため、
“悪を絶つ剣”なんて異名を持っているのだ。
かっこいいよね。・・・俺は厨二病じゃないよ?
しかし本人は去年幼馴染の女の子に裏切られてトラブルに巻き込まれ、
俺やこころちゃんやテツくんとでトラブルを解決したものの、
色恋沙汰はコリゴリだと、とてもストイックに部活に励んでいる。
すごくモテるのに彼女を作らないのにはそんな理由があったりするが、
その話はいずれ、どこかで。
「おはよう、村雨。あいかわらずビシッとしてるな」
「お前も変らず壮健そうで何よりだ、村正。
それに、井上、テツも」
「おはよう、村雨くん」
「おはよー村雨くん。・・・なんでも剣道部に期待の新人が入ったとか?」
明日菜がそういうと、ああ、と静かに頷く村雨。
「分の悪い賭けに突っ込みがちなのが玉に瑕だが、
将来が楽しみな新人だ。
それとそのおっかけで女子マネージャが入ったぞ」
ふっ、と笑う村雨は、別に恰好をつけているわけでもないのに仕草がいちいち格好いい。
ずるいよね!
その貫禄に剣道部員からは親分とか呼ばれているが、
本人もまんざらじゃなさそうなんだよな。
「そういうお前も分の悪い賭けは嫌いじゃないだろ」
俺の言葉にニヤリ、と笑って返してくる村雨。
「ところで朝練はお休みなんですか、
村雨くん。最近は剣道部の部室が静かですが」
丁度会話が途切れたタイミングで切り出すテツくん。
「うむ。実は最近、隣町からこの街へよからぬ輩が往来しているという話を耳にするようになったので、部員たちと俺で、朝夕、こうして目を見張らすようにしているのだ」
よからぬ輩って何だろう・・・と聞こうとしたところで学校についた。
その話はまた今度あったときにでも教えてもらうとしよう、
そんな事を思いつつ今日も一日が始まった。
----------そういえばほのかは寄り道をするといっていたがどこに行ったんだろうか?
頭の片隅で、ちらりとそんなことが思い浮かんだ。