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1.

「・・・あれ・・・ほのか、か?」

幼馴染で恋人の藤島ほのかとのデートをドタキャンされた俺は、

暇をつぶしに一人で街へと繰り出した。


このあたりだとでかいショッピングモールに繰り出すか、

片道4車線の大通り沿いの商店街のどちらかになるのだが、

今日は目的もなく歩きたかったので俺は商店街をぶらぶら歩くことにしたのだ。


すると、大通りを挟んだ向こう側の道に、見知った後ろ姿をみた。

長い黒髪を腰まで伸ばし、

流行りの色合いのワンピースが良く似合う姿。

その横顔を、16年間一緒にいた俺が見間違えるはずがない・・・のだが。

その、ほのかによくにた子は

、一見するとTVのアイドルのような雰囲気をしたイケメンと親し気に腕を絡め、

その肩に頭をのせながら路地へと姿を消した。


「ちょ待てよ、ほのか?!」


思わず追いかけようとするが、

ここは片道4車線だ、とてもじゃないが渡れない。

なんだか嫌な焦燥感に駆られて、

大急ぎで信号まで回り込み、

2人が消えた路地を追いかけたがその姿はもう見えなかった。

肩を激しく上下させ、

息を上がらせている自分がいるだけの路地に、

さっきの2人の姿を俺は幻視した。


「違うよな・・・お前じゃないよな、ほのか・・・」


その言葉には誰も答えてくれなかった。


これは俺、村田正吉が、16年一緒だった恋人で幼馴染の藤島ほのかを無様に寝取られる物語。




次の日の朝。

いつものように、俺を迎えに来たほのかと一緒に通学路を歩く。

「ほのか、体調は大丈夫か・・・?」

昨日のほのかによくにた姿がチラつき、

様子を探るように聞く。

「うん、もう元気だよ!

しょうちゃん、心配かけてごめんね

・・・それと、折角のデートをドタキャンしちゃってゴメンね!」

眉尻を下げつつ、

両の掌を顔の前で合わせて、

申し訳なさそうに謝るほのか。

「え?ああ、それならいいんだ。ほら風邪って長引くと大変だしな?」

そうやってごまかすが、

どうしてもドギマギしてしまう。

この幼馴染の藤島ほのかは、

10人に聞けば10人が美少女だと答えるだろう、

整った顔立ちをした美少女だ。

くりくりとした二重の瞳に、

すらっとした鼻筋、

そして少しアヒル口の似合うぷるぷるの唇。

さらりとした黒髪と合わせて、すれ違う人の目を奪う、そんな美少女だ。


都市に繰り出せばモデルやアイドルのスカウトが群がるが、

ほのかは「しょうちゃんと一緒にいるじかんがなくなるのは、やだから」

と、そういった誘いをすべて断り、

俺の恋人で幼馴染でいることを選んだ。


そんな、一途に想いを向けられて応えないのは男じゃない・・・!


ということで俺は勉強も、運動も、遊びも、様々な事を全力以上で取り組んできた。

ほのかのとなりで胸を張って立っていれる彼氏でいたいから、

あらゆる努力を惜しまなかった。

そうした結果生まれたのは、

何が得意なのかわからない、

特徴がないのが特徴の優等生という良いのか悪いのかわからない妙な評価と、

たくさんの友人達だ。


まぁこれも結果オーライというやつなのだろう、

ほのかのおかげで俺は自分の限界以上に自分のスペックを引き出すことが出来たのだから。



だから・・・急なデートのドタキャンが続いても、

こうして謝られればついつい許してしまうのだ。

結局俺はほのかにベタ惚れで、

どうやっても許してしまうのだ。

我ながらほのかにはあまいよなぁ、

と思うのだが、仕方ないね。


だってほのかは可愛いから。


俺がほのかに惚れているのは見た目が理由じゃない、

子供の頃の出来事で、

ほのかの内面をしって惚れたからなのだけれども

・・・それを思い出し始めると思考がトリップしてしまうので、

ここで思考を中断して目の前のほのかに向ける。


「?」


俺の様子に、小首をかしげるほのか

「くっそう!今日も可愛いなほのか!!」

そういってほっぺをむにむにとする。

「はわわ、ひょうひゃんなにふゆほ~~~」

あはは、顔をもにもにされてもほのかはかわいい。

「もうっ、しょうちゃんったらいつまでたっても子供なんだから!」

そういて拗ねた様子を見せるが、すぐにつつ・・・っと視線を俺に戻す。

「ごめんなほのかー、ついほのかが好きすぎて!」

「・・・もう、そう言えばすぐ許してもらえると思ってるんだから

・・・でも、許してしんぜよー」

「ははー!ほのかちゃん様ー」

そんな風に今日もイチャイチャしながら、

俺たちは登校するのだった。


俺とほのかはクラスが別々なので、

それぞれに分かれて教室に向かった。


教室に入って席に着くと、

隣の席から声がかけられる。

「村正ァ!今日も甘ったるい顔してるねー」

そう言って話してくるハスキー声の女子生徒。

俺のことをあだ名の村正---村田正吉むらたしょうきちを縮めて村正と呼ぶのは、

一年の頃からのクラスメートだからだ。


一年の時、俺のクラスには村田が2人いた。

で、村田と呼ぶと被るから苗字と名前の字を取ってそれぞれ村正、村雨と呼んだからだ。

そのせいで俺は二年になっても村正のあだ名で呼ばれ続けている。

同様に別のクラスには村雨くんもいるのだが・・・。


「おう、今日もラブラブをキメてきたからな。

お前は相変わらず朝から眠そうだな明日菜」

「ねむいよー。

昨日ホゲモンジョイントでマスターランクを行ったり来たりさせられて、

辞め時逃したんだよー。

味方ガチャなんていうつもりはないけど、

あの手のゲームは敵味方のマッチングで毎試合のムラが酷いんだよな、

ボクも他の上手い人からみたらそうなんだろうけどさー」


そういいつつあくびをするのは、

一年の時からの友人の一人、井上明日菜。

すこしクセの付いた毛をショートボブにし、

残りの髪を頭の上で御団子結びにしている。

化粧っ気がなく、でっかい黒ぶち眼鏡は顔の半分を覆っている。

がその目の下のクマが消えたところは久しく見たことがない。

カッターシャツの上はだぼだぼの紺色パーカーで、

いつもぼてっとした着ぶくれ感を醸し出している。

スカートの下には芋色ジャージがこいつの一張羅だ。

明日菜は男兄弟に囲まれて育ったからか、

ゲームやプラモデルといったものに詳しく、俺も色々と教えてもらうことがある。


男女の垣根を超えて、なんて言葉があるけれども。

中学の頃からの悪友で、明日菜とも仲が良い。

俺とはゲーム友達という接し方をするし、

砕けた口調でしゃべりこそするが明日菜とは結構買い物に行ったりしていて、

女の子らしいところもたくさんあるのだ。


ほのかと付き合いだす前は、

よくほのかを連れて3人でゲームセンターに乗り込み対戦ゲームにあけくれたりして、

ほのかに応援してもらいながら俺と明日菜のコンビで有象無象を蹴散らしたものだ。

俺がほのかと付き合いだしてからは、

一緒にゲームセンターに繰り出せなくなったからかオンラインゲームにハマっているらしい。

それは、目の下のクマが雄弁に物語っている。


「相変わらずすげーなー。またゲームやろうぜ」

そういうと、眠そうだった目をクワッと見開き、

キラキラさせながら身を乗り出す。

「おっ、おっおっ、やっちゃう?やっちゃう!?

ムラアスコンビ復活しちゃう???」

ムラアスというのは俺たちがゲームセンターで、

ダンガムVSというロボット対戦ゲームで暴れまわったとき、

連勝しすぎてつけられた異名だったりする。

俺が苗字のムラタで、

明日菜はアスナでプレイヤーネームで登録するからムラアスなんだぜ。統一感ないよな!


とはいえ俺は遊びにも全力の男、ゲームも勿論全力投球だ。

俺の強さはこの明日菜のわかりやすくためになる指導の賜物なのだが。


「フッ・・いいぜ。

俺ホゲモンジョイントとかやったことないけどお前とならイケるよなぁ!」

「いけるいける!

ボクが3日で一人前のプレイヤーに仕上げてみせるよ!!」

あ、これガチで俺を仕上げにかかるやつだわ。

キラキラしたその目が笑ってない

・・・本気ガチの目なのに気づいた俺は、

これから3日は寝不足になるなぁ、という予感に身を震わせるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お前FG○ユーザーだろ村正ァ!
[良い点] 村正ァ! キャス○リアの姿が鮮明に浮かびました。 お話も好みなので、応援してます。
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