第二十八章 亮太、人身売買から同僚を救う
ある日、職場で文子から、「陽子さん、相談したい事があるのよ。お昼休みに話を聞いて頂けませんか?」と困っている表情で相談された。
亮太は、朝から文子の様子がおかしかったので、心配になり相談に乗ろうとして了承した。
亮太は、「わかったわ。お昼休みに、ご飯を食べてから女子更衣室で話を聞くわ。」と安心させた。
昼食後、女子更衣室に行くと文子が待っていた。
亮太は、女子更衣室に設置されている長椅子に座っている文子の横に座り、「文子、今日はどうしたのだ?何か心配事か?」と話を切り出した。
文子は、「実は、先日、彼氏からプロポーズされました。プロポーズの返事をする前に親兄弟を紹介してほしいと何度催促しても、いつになっても彼氏の親兄弟に会わせてくれないのよ。お金は要求されてないから結婚詐欺ではないと思うけれども心配で、どうしたらいいのかしら。」と悩んでいる様子でした。
亮太は、「それは心配ね。わかったわ、何か理由があるのかもしれないわね。信頼できる探偵を紹介するから調べてもらえば?その調査結果次第で、プロポーズを受けるかどうか決めれば?」と友彦に調べさせようと考えていた。
文子は、「探偵の調査費用はどのくらいなのかしら?調査依頼せずに彼に返事しようかしら。」と金銭面の心配をしていた。
亮太は、「これは一生の問題だぞ。大金を支払う価値は充分ある。後で後悔しても遅いぞ。最悪の場合、犯罪がらみだったらどうするんだよ。金銭面の事は両親に相談する事を勧めるわ。」と文子の心配をしていた。
文子は、「わかったわ。そうするわ。人件費だとか実費だとか考えると、結構な金額になりそうね。」と金銭的な事は両親に相談する事にした様子でした。
亮太は、「費用は、調査の内容によっても異なると思います。調査依頼時に確認すればどうかしら。」と金銭的な事は亮太もよくわからない様子でした。
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文子は親とも相談して、一生の問題だから費用は援助してやると助言されて、調査依頼する事にした。
翌日、文子から依頼された亮太は、調査依頼だと友彦にアポをとり、文子と探偵事務所を訪れた。
亮太は、松島を信頼できる探偵で、昌子の婚約者だと、文子に紹介した。
文子は事情を説明して、取り敢えず実費として十万渡して調査依頼した。
友彦は、「了解しました。調査費用は、一日二万円と、実費になります。その他、危険な事が予想される場合は、危険手当が加算されます。残りは、調査終了後に請求させて頂きます。」と調査依頼を受けた。
亮太は、「それじゃ松島、頼んだぞ。」と調査依頼して、文子と帰り、友彦に任せて安心していた。
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数日後、中年女性が職場に亮太を訪ねてきた。
亮太は受付から、お客が来ていると聞いて、誰だろう?と考えながら受付にいった。
亮太は受付嬢に確認して、中年女性に声をかけた。
「秋山陽子です。どういった御用件でしょうか?」と話しかけた。
中年女性は、亮太のネームプレートを見て、「秋山陽子さんですか?木島文子の母です。」と自己紹介した。
亮太は、「何かあったのですか?」と母親が直接訪ねてきたので嫌な予感がした。
文子の母は、「彼氏との事を職場の秋山陽子さんに相談していると聞いていたものですから、失礼かとは思いましたが訪ねて来ました。じつは、彼氏の事を、秋山さんに紹介して頂いた探偵事務所に調査依頼したと聞きましたが、その調査結果が出る前に、有給休暇を取得して彼氏と京都旅行に出かけました。止めましたが娘は、結婚するわけでもなく、大金を渡すわけでもないので、今までの旅行と同じよ。大丈夫だからと出かけました。でもそれ以降、娘の携帯の電源が切られていて連絡できないのよ。」と心配していた。
亮太も文子に電話して確認した。
「たしかにおかしいわね。充電器を忘れたのでしたら、公衆電話から連絡する方法や、宿泊先ホテルから外線電話する方法や、充電器を携帯販売会社で借りるなど、方法はいくらでもあるわよね。」と考えていた。
文子の母親は、「いいえ、荷物の中に、たしかに充電器はあったわ。」と娘の荷物を思い出していた。
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亮太は、文子に何かあったと直感して、「わかりました。探偵事務所にいきましょう。少しここで待っていて下さい。」と文子の母を待たせて、職場に戻った。
結城課長が不在だった為に、早退届を提出して、昌子に事情を説明して、早引きした。
亮太は友彦に緊急事態だとアポをとり、母親をセドリックの助手席に乗せて探偵事務所に連れていき、調査の中間報告を依頼した。
友彦は、「中間報告?調査終了まで待てないのか?何かあったのか?」と文子の身に、何かあったのかと心配していた。
文子の母親から事情を聞いた友彦は、「家族の中に、やくざが一人いる。彼氏の兄貴が、銀龍会のやくざで京都に住んでいる。だから兄弟に会わせなかったのだろう。京都旅行中に音信不通になったのは、やばいかもしれない。警察に通報する事を勧めます。」と事務所の固定電話を文子の母に向けた。
母親が警察に通報すると亮太が、「どうでしたか?警察はすぐに動いてくれそうですか?」と文子の事を心配していた。
母親は、「捜索願を提出して下さいと指示されましたので、これから警察に行ってきます。」と警察に行こうとした。
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亮太は京都と聞いたので、「警察ものんきやな。ちょっと待って、知り合いの警察関係者に連絡するわ。」と呆れて京都府警の広美に連絡した。
電話を終えた亮太に母親が、「捜査一課の高木係長って、陽子さん刑事さんと知り合いなのですか?」と娘が言っていたように、陽子さんは顔が広く頼りになると感じた。
亮太は、「高木係長の説明では、日本全国で若い女性が行方不明になる事件が多発しているそうです。通報が切欠で、それに京都の銀龍会が関係しているらしいと警察が突き止めたらしいわ。娘さんは、金銭を渡さないから詐欺ではないと安心していた様子ですが、犯人は金銭ではなく、娘さんの体が目的だったようです。高木係長は信頼できる刑事です。捜索願がどうだこうだと言わずに、すぐに動いてくれるそうです。文子さんの顔写真と宿泊先ホテルと旅行のスケジュールを、京都府警捜査一課三係の高木係長宛に電子メールで送信して頂きたいと依頼されました。」と母親に伝えた。
母親は、旅行のスケジュールはスマホに写真撮影して保存していたために、スマホに保存している娘の写真とともにEメールの添付ファイルとして、本文に宿泊先ホテルと部屋番号と名前を書いて、亮太から聞いたメールアドレスに送信した。
数分後、広美から母親と亮太のスマホに返信メールがあった。
「メール確かに受け取りました。銀龍会は平気で人を殺します。危険ですから手出しせずに、後は私達に任せて下さい。」と広美が捜査する事を伝えて、以前娘の愛美が銀龍会に狙われていた事を思い出して、その容疑者が簡単に自供したのは、この人身売買の事が発覚するのを恐れたのかな?と考えていた。
亮太は、「後は警察に任せましょう。」と母親を安心させて自宅まで送った。
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数日後、広美から着信があり、「先日の依頼の件ですが、彼女は舞鶴の港から密輸船に乗せられて外国に売られようとしています。現在、地元の警察にも連絡して、私も港に急行していますが、出航時間に間に合いそうにもありません。秋山官房長官の力で出航を止められませんか?船名はサンタマリア号です。」と依頼された。
亮太は、「舞鶴港に停泊しているサンタマリア号ですね。わかりました、父に頼んでみます。」と了承して、父に電話して事情を説明して、お父様の力で警察が到着するまで出航を止めてほしいと依頼した。
広美達警察が舞鶴港に到着すると、サンタマリア号の出航許可が取り消されて、まだ港に停泊していた。
海上保安庁の巡視船が、舞鶴港に向かっていると舞鶴港の職員から聞いた。
広美は、海上保安庁の巡視船まで出動させるとは、さすが秋山官房長官ねと感心して、密輸船の周囲にいた、銀龍会のやくざを警官隊と調べていた。
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警察がきた事に密輸船の船長が気付いて、搭乗橋を切り離せば、強行出航しようとしている事に感づかれると判断して、チャンスを見て、密輸船を、搭乗橋を切り離さずに強行出航させようとした。
広美は、銀龍会の車やワゴン車から、女性数名の着衣が発見されたが、女性達は発見されなかったので、密輸船にすでに乗せられていると判断した。
ガリガリガリ!と大きな音で、密輸船が強行出航した事に気付いて、「しまった。」と搭乗橋が接続されている為に、まだ出航しないと油断したと焦っていると、海上保安庁の巡視船が舞鶴港に到着した。
広美は覆面パトカーのスピーカーで、「こちらは京都府警です。サンタマリア号には、誘拐された女性が監禁されています。出航を阻止して下さい。」と海上保安庁に依頼した。
巡視船も、搭乗橋を切り離さずに出航した船舶が不審船だと判断して、進路妨害して銃撃戦の末、逃亡しようとしたサンタマリア号が巡視船を避けようとして座礁した。
広美達警察は海上保安庁と協力して、サンタマリア号を捜索していると、全裸の女性数名発見し、その中に文子もいて無事救出した。
文子達の証言から、銀龍会組員と文子の恋人を逮捕して、サンタマリア号については海上保安庁に任せた。
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京都府警の広美は、女性達の保護者に連絡して事情を説明した。
京都府警まで、迎えに来るように依頼して、保護者が到着するまで事情を聞いていた。
連絡を受けた文子の母は、京都まで文子を迎えに行った。
文子は京都府警に到着した母を見て、泣きながら抱きついた。
母は、「文子と連絡できなくなったので、文子から聞いていた秋山陽子さんに、京都旅行中に行方不明になったと相談すると、京都府警捜査一課の高木係長に頼んでくれたのよ。」と説明した。
文子は、「やっぱり陽子さんに相談していて良かったわ。」と亮太に感謝していた。
文子の母は、他の刑事が広美の事を係長と呼んでいるのを聞いて、「あなたが、先日秋山さんが電話していた高木係長ですか?木島文子の母です。娘を救って頂いてありがとうございました。」と御礼した。
広美は、「高木です。私は刑事として当然の事をしただけです。娘さん、無事で良かったですね。」と被害者を無事救出できて安心するとともに、これから銀龍会を家宅捜査して、海上保安庁と連携して人身売買組織を壊滅させようと考えていた。
その後、文子は母と帰った。
次回投稿予定日は、6月22日を予定しています。