終焉
注意:食べられません(多分)
何の変哲もない何時ものある日の夕方、世界は唐突に終わった。
何時もと変わらない下校の道。
夕焼け空、濃紺と紅の間に混ざり解ける美しい菫色。
一人で歩きながら何と無く見上げた空、夕焼けの紅よりも境界でぼやける菫色に見入っていた高校二年生の砂原未紗は「明日は晴れかなぁ」などと暢気に思っていた時。
突然夕焼けとは別の、血のような真っ赤な色に視界が染まり驚いて立ち止まった。
すると大音量で感情を感じない無機質な声のアナウンスが流れた。
---『緊急事態、深刻なエラーが発生しました』---
最初は災害警報の地域の放送か何かだと思った、しかしそのような緊急警報を知らないし、前後に警報音が無いことで近所の学校や役場の放送ではない。そもそも内容の意味がわからないので、何の危険がどう有って如何に備え、行動するべきかもわからない。
違和感もある。SFアニメのロボットキャラやAIが言いそうな台詞が頭の中に直接響き、聴覚で直接聞いた音声ではないような気がして、もしかして幻聴かな?と思った直後に、今度は耳障りなアラーム音と共に再び脳内に直接聞こえた。
---『緊急事態、深刻なエラーが発生しました。制御不能、緊急停止及び修復不能』---
「え、これ避難警報じゃないの?何、どういう・・」
そして唐突に電源が落ちるように世界は閉じられた
---------------------- ブツン --------------------------
気が付くと何も無い白い部屋の真ん中に立っていた。
過去に気を失った事は無いけど、瞬間的な気絶から目覚めたような、いや、すごく長い間寝ていたようなどちらとも感じる今までに経験のない不思議な覚醒で、先ほど呟きかけて言えなかった言葉を声には出さず思考する。
(何これ、どういう事なの、急に死んで場面が変わったみたいな状況?、さっきのアラームとエラーって、まさか世界の終わりとか?ここは死んだ後の世界?)
まさかね、なんて適当な事を思っていると不意に正面から声がかかった。
「はい、概ねその通りです」
「!」
一瞬思考に沈んでいたとはいえ、視線を少し上にしか動かしていないはずの正面に、何時の間にか現れた誰かが答えた。それも言葉にしてない思考の邪魔をしない切りの良い絶妙なタイミングで。
「えぇ!?嘘、誰も居なかったはずなのに」
「今来ましたので」
「そうですね、世界の終わりで間違いはないのですが、少し訂正するなら世界以上の範囲で壊れています」
「6次元空間事象整合処理システムがクラックされました、人類は予想されない方法と規模で惑星すべてを巻き込んで自殺、滅亡しました。」
「全然意味わからないけど・・・、本当に世界ごと終わっちゃった、て事なんだ。じゃあ私、死んでるの?」
「はい、その認識で正しいです。もっとも危うく存在ごと破壊されて消滅する直前でしたけどね。」
「ん?破壊されて消滅したから死んだのじゃなくて?」
「存在事破壊された場合、修復不能または無に帰ったという事になり、人としての記憶も、それまでの行いの記録の再生も再現も不可能という事になります」
「うーん、つまり今の状態なら前の続きとか、新しく転生みたいな事が出来るって事?」
「お望みなら、どちらも可能です」
今まで生きて来て17年とまだ短いが、その間には辛く悲しい事や悔しい事は沢山有ったけど、楽しい事、嬉しい事も有ったわけで、別に不幸という程ではなかった。
正面にいる存在がこの後の事について提案してきた。
『修復された、かなりのデータを失った元の世界とは似て非なる世界』で、今までの続きから砂原未紗の再スタート可能という,最も無難な選択を・・・・・。
しなかった、咄嗟にある欲望が横切ってしまった。
強烈に菫色、白色の2色のイメージと二人の像が思い浮かぶ
最後に見た美しい空の菫色は、人付き合いの苦手な私の中では最も長く一緒にいて、大切な、私みたいなどんくさい者を構ってくれた面倒見のいい[お茶目な親友]の色であり、その子のイメージそのもの。
地味な自分には似合わない色、とても好きな色なのに自分には縁のなかった色。
(何時も服や小物で欲しいと思ったとしても、子供っぽい自分には似合わないと諦めた色)
そして同じく、大事なもう一人の[憧れの親友]のイメージは純白。
すごい美人で明るく快活で頭の回転もよく、自分に無いものをたくさん持っていた。
(私が欲くても手に入らないものをはじめから持っていた、私だけでなく女子が羨むようなドラマや映画でしか見ないような場面を事も無げに現実にして、みんなの中心で輝いているあの子を見てきた)
その子はとても視野も広くその上面倒見が良くて、どんどん皆が先に進んで行く中、大抵先頭集団に居るのに、いつも置いていかれる私を見つけては、当然の様に戻ってきて明るく楽しそうに手を引いてくれる。
(私は必死で周りを気にする余裕なんて無いのに)
あの子は私の自慢の友達で、私を他の人より特別に扱ってくれて、私の事を誰よりも理解してくれていて。
(私も大好きで、特別なのに、だけど私にはあの子を理解できなくて、どうして私をこんなに構ってくれるのかも)
あの子はいつでも色んな人にすぐ懐かれてすぐに愛される。
(私はあの子になりたかった)
だから・・・。
(だから)
思考が収束して行く。
不意に私は気付く。
何時もの私ならこんな事はあり得ない
本来すぐに認識しなければならない事をまったく認識出来ていない異常に。
しようとすらしなかったことに・・・。
今の状況はなにかがおかしい。
私は怖がりだったはず。
私は人見知りで初対面の人とまともに会話なんていきなりできないはず。
私は今、本当は何処にいるのだろう。
私は今、本当は誰と話しているのだろう。
目の前にいるはずの会話をしていたモノは、本当はどんな姿をしているのだろう。
本来私が私で有る為に、普段無意識でするはずの行動がすっぱり抜け落ちていた。
本来最初に持つはずの疑問がやっと今頃になって湧き出した。
危機を感じる本能も此処にきて遅れて働き始めた。
何かがまずい、今までの流れの間に取り返しの付かない何かをしてしまった。
それが何か整理がつかないが確信がある。
結局人は興味が無いもの、意識しないものは目の前にあっても認識しないのである。
それは、あえて分かっていて認識しないように無意識でしているものも同じであり。
タトエバ・・・
一つは、人に対しては厳しく指摘するのに、自分の同じ行いは棚に上げてるようなもの。
一つは、失敗や恥ずかしい出来事を認めたくないがために、空想の中で架空の(あるいは実在の)誰かのせいにして記憶を捏造して上書きして、しばらくすると忘れ去っってしまった本来あったはずの事実とか。
ソシテ・・・
一つは、心の奥に隠してある・・・認めたくない醜い欲望。
最後の一つは、この部屋にいつの間にか表れて、いや、最初から居る誰か
目の前に居て顔も性別も髪の色も背の高さも、きっとよく知っている、人・・・だと思う誰か?
目の前に居るのに顔も性別も髪の色も背の高さも分からない、人かもわからない誰かが答えた。
「分かりました、別の新しい世界で『あの子』みたいになりたいという事ですね。」
いけない、まずい。(ウレシイ)
すべての思ってしまった事がダイレクトに伝わってしまう、つまり心が筒抜けな、相手が叶える願いなど、建前や自尊心や倫理という壁などが機能しない。制御の無い欲望そのものの願いなど。
このままではいけない、すごくいけない(ソウナッタラステキ)
結局本音が全く減算されずに伝わった欲望は形となり・・・。
見えないはずの正面のモノの口元が異様に吊り上がったように感じたと同時に私は意識を失った
勢いで書いた、公開はしたが後悔はしている。
続くか不明です。