シガーキス
貴方は見た事ある?
道端や、量販店、果てはスーパーの端っこで場違いな商品を笑顔で勧める集団を。
キャンペーンガール、それを纏める仕事が私の職。
ディレクターって呼ばれてる。
会社から支持された場所に際どい衣装を着た女の子達を引き連れて商品を売り付ける仕事。
私は女の子に釣られてきた鼻の下伸ばしたおじさんとか、安い!に目が無い主婦に決まり文句を言って買わせるの。
キラキラの若い女の子の後ろでスーツを着た地味な女、それが私。
誰も見てない、地味な私。
「お疲れ様でしたー!」
元気な挨拶をして頭を下げるキャンギャル達。
「はーい、お疲れ。終業メールだけよろしくー」
喫煙所でぷかぷか吹かす私に律儀に挨拶をするギャル達。
今日も眩しいわ。
シャツの襟元を緩めてすっかり暗くなった空を見上げる。
今日は携帯ショップの店頭を借りての仕事だった。
店員のスタッフも皆感じがよく、土曜の掻き入れどき、まずまずの成果だった。
バックヤードの裏口から出た場所が喫煙所になっており、ヘビースモーカーの私は動線の短さに感謝していた。
大型量販店じゃこうはいかないからね。
「お疲れ様です。火、借りていいですか?」
ふと、隣に急に現れた人に驚きつつも、ジャケットのポケットにしまったライターを弄る。
その仕草が可笑しかったのか、少し笑われた。恥ずかしい。
「こっちでいいですよ」
鼻先が触れそうな程近づかれて、シガーキスをされる。
思わず仰け反りそうになるが、踏み止まり、火が着くまで待つ。
伏せられた相手の睫毛の長さに胸がときめく。
「今日売れましたねー、ありがとうございます」
顔が離れ、一口旨そうに吐き出してから、軽い調子でお礼を言われる。
ショップの副店長だと紹介された男性だった。
「こちらこそフォローありがとうございました。助かりました」
取引先に対する距離感で挨拶を返した。
「綺麗どころがいると皆気合い入りますからね」
このショップは珍しく男性比率の高いお店だから、そういう事もあるのかと頷く。
「確かに今日のキャンギャルはレベル高い子達でしたからね」
「えっ?それ本気で言ってます?」
苦笑しながら返される。
「はっ?え、ええ」
曖昧に返すと、名刺を渡された。
「プライベートの端末の番号です。気の迷いでもなんでもいいので、掛けてください」
そう言って吸殻を水の溜まった大きな缶に投げ捨てて裏口からバックヤードに彼は戻ってしまった。
「ええー、こんなんマジにあるの?」
私は暫く放心した。
こんな地味女で遊んでどうなるの?
でも、もし、遊びじゃなかったら?
彼の整えられた髪から覗く耳の赤さが本当だったら?
私は荷物を持って歩き出した。
明日、日曜もここでキャンペーンの仕事だ。
明日、聞いてみよう。
彼の本心を。