貴族家を畳んだので冒険者になります
練習です。気軽にお読みください。
「今までお世話になりました」
「いやあ、本当に辞めるの?考え直さない?」
玉座でそんなことを言っているのは、この国の国王だ。武勇こそないものの、非常に聡く、公正な目を持っており、賢王として知られている男だが、今の彼には心なしか王の目が濁って見える。
「はい、昔お伝えした通りです。私が王宮に居れば諍いのタネになってしまいます」
自らの出自を考え、そう答える。家族が死に絶え一人きりとなった貴族家だ。位も高いだけにどこの勢力も取り込もうと躍起になっている。
「そんなの儂の力でどうにでもなるからさぁ」
玉座から前のめりになりそんな事を言って来る賢王(笑)。その発言に側近の者達も口元を引きつらせている。
「ねえねえ、前から言ってるけど養子にならない?王太子にしても良いアイタ!」
返事をしなかった事を悩んでいると捉えたのか、嬉しそうに話を続けていたが、背後から殴られて中断した。
「何するのレンちゃん。お父さん大切な話をしているんだけど!」
「うるさいわクソ親父!なんで俺を王太子から下ろすみたいな話になっとるんや」
そう言ってさらに国王へ殴打を行っているのは長男であり後継者のグレンデルだ。国王は殴られた衝撃で玉座から滑り落ち膝を強打した。
「痛い!国王にこんなことしてタダで済むと思っているのか!」
「誰に言うとんねん!」
そんなどつき漫才を眺めていると、後ろに控えていた王妃様が溜息をついた。
「ごめんなさいねジェームズ。せっかくの門出が締まらなくなってしまって」
「そんなめっそうもない」
「国王は私たちで押さえておくから、今のうちにお行きなさい」
そう言われたので一礼して、踵を返す。視界の端に部下だった近衛兵達が敬礼しているのが見えたが、彼らとの別れはすでに済ませている為視線を送るに止める。
「痛いってレンちゃん。ジェームズ君!ユリアはあと2年は嫁に出さないから気が変わったらいつでも王太子になりたいって言ってよね!」
「このクソ親父!王太子は俺だって言ってるだろ!ジェームズ!ユリアが欲しけりゃ降嫁を認められるくらいの手柄を立てろよ!じゃないと承知しねえからな!」
背中からの声に振り向きたくなるが、今の顔を見られるのも癪なのでそのまま王宮を出ていく事にする。
さて、爵位もこれまで培った人脈もまっさらになってしまった。残ったのは昔馴染みのペット達だけだ。まずは手に職をつけねば始まらない。王都の大通りを進み、雑多な人混みに溢れる建物の一つに入る。
「い、いらっしゃいませ」
受付の少女が引きつった笑みで挨拶をする。おかしい。先ほどまで賑やかだった空気が一瞬で緊張に包まれる。
「ご、ご、ご依頼でしょうか貴族様」
「いや、貴族はもう辞めた。冒険者として登録したい」
そう伝えると少女は慌てた様子で「少々お待ちください!」と叫び奥に消えた。周りの野次馬達もヒソヒソと話しながらこちらを盗み見ている。
何か間違えただろうかと思いながら懐から葉巻を取り出し、先端を切り取る。
火をつけようとすると奥の方から少女に連れられた中年の男がやってくる。
「貴族様、お戯れはお辞めください」
「何の話だ?もう貴族ではないと先程も言った。私は冒険者になりに来たのだ」
葉巻に火をつけ一吸いする。甘い香りが鼻を抜け煙となって放出される。そう言えば葉巻はなかなかの高級品だ。今持っているものがなくなればそうそう買う事は出来ないだろう。
「……わかりました。こちらの書類に必要事項を書いてください」
「物分かりがいいな。素晴らしい」
そう言って、渡された紙に必要事項を書いていく。内容は名前、職業、過去の経歴などだ。名前以外は書かなくてもいいらしいが、別に書いて困るものはない。「達筆ですね」と受付の少女は言うがそんなものだろうか?もしかして字が汚いと遠回しに言われている?
「書いたぞ」
「はい、有難うございます。ジェームズ様、職業はテイマー、過去の経歴は……ここで言うことではありませんね」
そう言って、用紙をしまう中年の職員。特に言われて困る経歴ではないので構わないのだが。
何だかんだあったものの無事に登録された。手近な依頼を受けようと踵を返すと数名の男達がニヤニヤしながらこちらに近づいて来た。
「待てよにいちゃん。ずいぶん騒がしてくれたな」
中心にいる男がそんな事を言いながらこちらを見ている。鍛え上げられた肉体になかなかの業物を持っている。冒険者は一番上のランクがSでFまであると言っていたな。部下達の強さをAとしたらCからDといったところか。ああ、いけない元部下達か。
「おい、聞いてんのか!聞いたぜアンタテイマーなんだろ?」
こちらの反応に何かイラつかせる要因があったのか?怒鳴りながらもいやらしい笑みを浮かべている男。そのような笑みでは婦女子の皆様は近寄ってはくれないと思うのだが、これが冒険者のアルカイックスマイルなんだろうか?後ろの男達も似たような笑みを浮かべている。
「ここの礼儀ってやつを教えてやるよ。何なら自慢のペットに助けを頼んでもいいんだぜ!どうせ没落貴族。大した従魔なんて持ってないだろうがな。アッハッハッハ!」
そう言って、大笑いする男。周りの男達もつられて笑い、建物内は笑いで包まれる。確かに礼儀は重要だ。可愛い子供達も含めてしっかりと自己紹介をしておくべきだろう。
「失礼、我が名はジェームズ。家名は爵位と一緒に返上してしまったのでただのジェームズだ。そして」
自らの魂に紐付けられた糸を手繰り術を発動する。この王国に古くより根付いて来た魔術。その中でも特に異端な空間を超えて獣魔を呼ぶ術を使用する。
「召喚。うちの可愛い子供達だ。以後見お知りおきを」
そう言って現れたのは二匹の人型。片方は人形のように整った顔と均整のとれた肉体。そして背中に青く輝く翼を二対もつ天使と呼ばれる存在。一方で美しくも感情の読み取れない天使とは逆に美しい顔に妖艶な笑みを浮かべ、コウモリの翼と羊の角を持つ悪魔と呼べる存在だ。そしてもう一匹
「すまないが、この子は大きくてこの場所には入らないのでね。顔だけで失礼するよ」
頭の上にあいた穴から出て来た存在。勢いよく出て来たせいで部屋の屋根を削り取っている。……すまない。請求書は王宮に頼む。今までの給料も退職金も大半置いて来てしまったから払えない気がする。
「GROOOOOOO!!」
頭上の穴から顔だけ出したうちの子。ドラゴンのジョルジョが嬉しそうに大声をあげる。久しぶりに大勢の人間に会えて嬉しかったのかな?だけど急に大声を出さないでくれ。鼓膜が痛い。
「ひ、ヒィぃぃ!」
先ほどの冒険者の男が膝をついている。周りの男たちは五体投地しているが、これからともに冒険者として頑張っていく身だ。上下関係など作らずに仲良くしたい。
両膝をついている男に近づき先ほど彼が浮かべていた嘲笑を真似てみる。
「どうぞこれから宜しく」
なるべく地の文を簡潔にしたら、説明不足になった気もします。ご意見お待ちしております。