2020/02/04『王国』『傲慢』『酸っぱい』
——本当は、こんなお方ではないのに。
一人の家臣が、項垂れていた。
この王国の、未来を案じて。
そして、国王を心配して。
その家臣だけが知っている。
国王は今、殺されようとしているということ。
その理由は「あまりに傲慢すぎるから」ということ。
しかし傲慢なのは、国王ではなく側近であること。
そして、側近が国王を何処かに閉じ込めていること。
自分が国王の振りをして、傲慢な態度を取り続けているということ。
——倒せ!
——倒せ!
——傲慢な国王を倒せ!
どこからかそんな声が聞こえる。
毎日。街のどこかから。
——今の王様でいいのかね。
——このままだとこの国は潰れるぞ。
どこからかそんな声が聞こえる。
毎日。城のどこかから。
——そんなお方ではない!
——誰よりも国民への愛を持ち、誰よりも優しいお方なんだ!
そう叫びたくても、一人の声では届かない。
それに、自分も潰されるかもしれない。
あの傲慢な、側近に。
誰かに真相を話そうとするたび。
側近へ諫言しようとするたび。
口の中にこみ上げてくる、よく分からない酸っぱいもの。
酸っぱさに溢れ、溺れてしまう。
だから、何もできないまま。
——王様、貴方様がご無事でありますように。
彼は独り、祈るしかなかった。




