2020/02/01『退廃』『サバンナ』『姫』
一人の少女が、サバンナにたどり着いた。
ここまでくれば、彼女を傷つけるものは誰もいない。
ただし、彼女を守ってくれるものも誰もいない。
飢えと渇きで、そして悲しみと孤独と、ひそやかな恨みで、彼女は傷つき倒れたのだった。
それは、少し前の話。
少女は大国ロコロの姫君だった。
国を愛する乳母に育てられ、心優しく人を愛する子に育った。
しかし、王はわがままで、重い税を課し、国民の暮らしをよくするわけでもなく、召使に給料を与えるわけでもなく、自分の子に何か与えるわけでもなく、自分だけが贅沢をしていた。
そのため、国民にとても嫌われていた。
ある日、国民は王に反乱を起こした。
姫君は乳母と共に逃げた。城の隠し通路を使い、街の裏通りに出て、逃げ続けた。
しかし、国民に見つかると攻撃された。
お前たちだけ贅沢しやがって、と。
姫はあまり贅沢をしていなかったのに。王のなすことに心を痛め、国民の幸福を祈っていたのに。そして、幼すぎて王への反乱はできなかったというのに。
乳母はまともに給与をもらえていなかったのに。
ただ、お城にいたから、それだけの理由で。
逃げ続けた。
乳母は姫をかばって死んでしまった。
一人で逃げた。
隠れながら。傷つきながら。
そして誰もいない場所にたどり着いた。
誰にも傷つけられないことを喜びつつ。
誰にも守られないことを悲しみつつ。
愛してきた人たちに、その思いを知られぬまま恨まれたことを恨み。
恨みという感情に気づいた瞬間、それは心の中で爆発して。
少女は独り、息絶えた。
皆死ねばいい。そう思いながら。
――その後、ロコロは謎の病によって、滅びたという。




