2019/12/23『畑』『魔法』『憤怒』
とある村に、とても仲の悪い男二人がいたという。
そのうちの一人は、とても広い畑を持つ端田さん。もう一人は、とても広い森を持つ盛田さん。
端田さんと盛田さんは、出会えばすぐに言い争いをすることで有名な人だった。
ある日のこと。
端田さんが、嫌がらせで盛田さんの森にこそっと忍び込み、草花が枯れる薬を撒いた。
もちろん森は、そのせいでボロボロになった。
端田さんの嫌がらせに怒り狂った盛田さんは、やり返しを考えた。しかし、同じ方法では面白くないし自分がやったとバレてしまう、と思った彼は作戦を練りに練った。
しばらくして、端田さんの畑から野菜を盗まれることが増えた。しかも、一晩にごっそりと野菜がなくなってしまうのだ。
怪しいと思った端田さんは、夜、寝ずに番をして、盗人を捕まえた。
そして事情を聞くと、とんでもない噂のせいだと発覚した。
——端田さんの畑で育てられている野菜は、食べれば食べるほど健康になれる、魔法の野菜。そんな噂を聞いたから、それがたくさん欲しくて。
盗人はそう言ったのだ。
言ってくれれば野菜は分けるし、そもそもうちの野菜にはそんな魔法の力なんてないのに。
端田さんが呆れて言うと、盗人は首を振った。
——魔法の力を隠したいんだろう? だから嘘をつくんだ、そうだろう?
「嘘じゃないのに。……ところで、誰からその噂を聞いたんだ?」
彼が尋ねると、盗人はまた首を振る。
——それを答えたら、きっと口封じのためにそいつを殺しに行くだろう? だから、言わない。
——なあ、口封じのため、俺のことも殺すのか?
盗人の言葉に、端田さんは絶句した。
そしてそれと同時に、噂を流した相手を何となく察し、ますます盛田さんへの嫌悪を深めた。




