2019/12/15『学校』『妖精』『教皇』
「さあ、授業を始めますよ」
櫃本先生のその一言で、教室内は少しずつ静かになる。
「さて、今日は前回の続き、ローマ教皇についてのお話です——」
私は教科書とノートを開き、先生の声に耳を傾ける。ここ、生前には受けられなかった内容だから楽しみなんだよね。
——あれ? あなた、見慣れない顔だと思ったら、転入生? ……ううん、違う。もしそうなら、絶対櫃本先生が紹介するもん。
まさか……まだ、あなた、生きてるの? えっ、大変!
なんで大変かって? だってここは「夜の学校」。学校に行きたかったのに行けずに死んだ人が集まる死者の学校だもの! 生きている人がいてはいけない空間なんだよ!
じゃあ、どうしたら戻れるのかって? うーん……私には分からないから、授業が終わったら先生に相談してみるよ。だからそれまで、ちょっと待っててね。
「こら、はーちゃん! 私語をしちゃだめでしょう!」
あっ、話してたのが先生にバレちゃった。
「はーい、ごめんなさーい」
この空間は笑いに包まれ、先生が授業を再開して、そして教室はまた少しずつ静かになっていく。
授業が終わったあと、私は櫃本先生のところへと走る。
「先生、先生!」
「あら、はーちゃん。どうしたの?」
「あの……生きてる人が、学校に迷い込んできたみたいで」
そのときようやく、先生はあなたに気づいた。
「まあ! 貴方だあれ? 確かにまだ生きているわね。どうしましょう……」
先生もどうしていいか分からなかったのか、困り顔だ。
と、その時。
「ふふ、悪戯成功っ」
どこからか声が聞こえてきて、目の前に妖精が現れた。
「あっ、きみ、前にも悪戯した!」
どうやら先生はこの妖精を知っているみたいだ。
「そうだよっ。また悪戯したくなったからしちゃった! ちゃーんとこの人は元の世界に帰すから。ね、いいでしょ?」
「よくないわよっ!」
——私にはちょっと状況が読めてないんだけど、取り敢えずこの人は元の世界に戻れる……ってことかな?
「まっ、気が済んだからしばらくは悪戯しないよっ。じゃーねーっ!」
妖精の声と共に、隣にいたはずのあなたは消える。
「……人騒がせな妖精ね、全く」
「……そう、ですね」
結局、状況に追いつけないまま、事態は収まってしまった。
「はーちゃん、次の授業がそろそろ始まるわよ」
「あーっ! 支度してない!」




