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2019/12/13『紅茶』『童話』『冷たい』

 実家に帰り、荷物を片付けていた。

「——これって」

 懐かしい背表紙が見え、薄いそれを慎重に戸棚から引き出す。

「うわぁ、やっぱり! なっつかしいなぁ」

 そこにあったのは、古ぼけてセピア調になった表紙絵。『こうちゃはいかが?』という本のタイトルが可愛らしく踊っていて、お茶を淹れる魔女とそれを飲む動物たちがいる。

「久々に、読んでみようかなぁ」

 私は胸をときめかせる。というのも……。

 ……こんなことを言うと笑われそうだが構わない。言ってしまおう。

 この本には、魔法がかけられていた。私はいつも、絵本の世界に入って物語を楽しんでいた。そう、文字通り「絵本の世界に入って」。

 今でもあの魔法は、かかっているのだろうか?

 私は胸をときめかせ、表紙を、めくった。


「何かが、違う」

 思わず、呟いていた。

 絵本の中には、入れた。

 しかし、絵本の中は、時が止まっていた。

「どうして……あの時はみんな、動いていたはず」

 冗談を沢山言っていたリスも、おしとやかに笑っていたうさぎも、歌が上手な小鳥も、甘いものが大好きだった熊も、みんな、みんな、固まっている。触れてみると、全員、冷たい。

 そして、その場に一人だけいないことに気付いた。

「魔女さん! 魔女さん! どこ⁉︎」

 茶目っ気たっぷりに笑っていた魔女は、色んな魔法を目の前で見せてくれた魔女さんは、どこにいるのだろう?

「落ち着きなさい、あたしはここよ」

 声の方を振り返ると、そこには昔と変わらない姿の彼女がいた。

「魔女さん!」

「まあ、だいぶ大きくなったのねぇ。あなたもすっかり立派な大人だわ。会えてとっても嬉しい! ……だけど」

 魔女さんは困り顔になる。

「あなたがあまりに大きくなったものだから……だから、この世界がここにいるもの全てを受け入れきれなかったのね。それで、みんなが動かないのよ。あたしが動いているのも結構無理やりでね、魔法の力でこの世界の許容範囲をなんとか広げている感じよ。それでも、あたし一人が限界」

「そうしたら……みんなには、会えないの?」

 じわり、目頭が熱くなったとき、彼女は首を振った。

「不可能ではないわ。あなたの歳を、一時的に若返られせばいいだけ。帰るときには、あなたをまた大人に戻して、元の世界に案内してあげましょう」

 歌うような声が聞こえた。それは、久しぶりに聞く魔女さんの呪文で——。


「わあっ! 久しぶり!」

「どこ行ってたの? ずーっと待ってたんだよ!」

「歓迎の歌を歌わなくっちゃね!」

「さあさ、座って! みんなでお茶を飲もう!」

 飛び上がらんばかりに喜ぶ動物たちに手を引かれ、椅子に案内されて、座らせられる。あの日と変わらない目線に、自分が子供に戻ったことを実感した。

「さあて、みんなに自慢の紅茶を淹れようかね。今日はクッキーもあるよ」

 やった、と喜ぶ声を聞いた魔女さんは、昔と変わらぬ笑みを浮かべていた。

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