2019/12/10 『受難』『酸っぱい』『姫』
夢を、見たんだ。
美味しそうな飲み物が出された気がして。
それに手を伸ばそうとした気がして。
なのに、誰かが手首を摑んでた気がして。
ぷるぷる、手が震えてた気がして。
飲んじゃだめよ、絶対だめ。
そんな声が、聞こえた気がして。
——そんな夢を、見た気がしたんだ。
お継母さまが、私を呼んでいる。
さあユーラ姫、いらっしゃい。
お茶会にしましょう、そう言って。
バルコニーに出された机。
その上にあるお茶請けとポット。
カップにレモンの蜂蜜漬け。
今日は張り切って入れたのよ。
美味しいお茶になるでしょう。
ええお母様、きっとそうよ。
ポットを傾けお茶を注ぎ、笑うお義母さま。
湯気を立てる紅茶。
ガラス瓶を開け、レモンを一切れ。
そっと浮かべたら出来上がり。
さあ召し上がれと、お義母さまは笑う。
夢が蘇る。
美味しそうな飲み物。
カップを手に取る。
手が震える。
飲んじゃだめよ。
声が聞こえる。
絶対だめ。
口を近づける。
お義母さまが笑う。
さあ、早くお飲み。
——嗤っている。
手が震える。
一口、飲む。
鳥が舞い降りる。
開いたままの瓶、レモン漬けの瓶。
鳥がついばみ、飛び立とうとする。
手が震えている。
冷や汗が流れる。
息が苦しい。
呼吸が浅い。
カップを落とす。
床に触れて、割れる。
鳥は飛ばない。
羽が震える。
そしてそのまま、息絶える。
ユーラ、あなたが憎かった。
自分より賢く、美しい。
貴方がいなければ、そう思った。
だから殺したの、今は亡きユーラ。
バルコニーから落としましょうか。
美しき姫、飛び降り自殺。
賢き姫が、選んだ死。
国民は何と言うのでしょうね。
ああ、この鳥は、燃やしましょう。
レモンと一緒に、消しましょう。
割れたカップは、捨てましょう。
手を滑らせたと言い訳してね。
殺した証拠は要らないのだから。




