2019/12/06『傲慢』『雨』『海』
空が、泣いていた。
花束を手に、俺は海辺へと訪れる。
「海に、花?」
いつの間にか、後ろに、幼い少年がいる。
どこか、俺を見下すような、表情だった。
「ああ」
俺は答え、花束を沢山の花にした。
「ばらしちゃうの?」
「ああ」
一本の花を、手に取り言った。
「これは、この海で死んだ友達のための、弔い」
「花束をそのまま、流しちゃ駄目なの?」
「駄目なんだ」
俺は答える。
「もしいつか、どちらかが海で死んだなら、命日のたびに、歌と共に、花を歳の数だけ、一本ずつ流そうと約束した」
そう少年に、教えてやった。
あいつは二十歳で死んだから。
だから用意した花も二十。
「何を歌うの?」
「二人で歌った、思い出の曲さ」
今となってはもう古い、誰も歌わないような歌。
曲名を言うと、少年は顔をしかめる。
「聞いたことない。古っちい歌なの?」
「そうかもな。でも、大切な歌なんだ」
息を吸って、声に変える。
色が宙を舞い、海に落ちていく。
ゆらゆら、ゆらゆら、遠ざかる。
叶うなら、その花を、彼のもとへ。
「ちょっとおじさんのこと、馬鹿にしてた」
やっぱりそうか。
歌い終わった後、少年の言葉に納得する。
「でも、今はしない。とても素敵な声だった」
気持ちが伝わってきたから。
そう呟く少年に、俺は微笑みかけた。
空は、泣き続ける。
俺と少年は、涙に濡れ続ける。




