2019/10/27『少年』『ロマン』『緑』
「おっ」
ある土曜日。釣り道具の手入れをしていたら、懐かしいルアーを見つけた。
「これなー、俺が初めて自分の金で買ったやつだ。どれ、最近は使ってなかったけど、まだ使えるかなーっと」
試しに綺麗に磨き、錆びた針を新品のものに付け替えてみると、緑色のそれはピカピカと輝いた。まだまだ使えるじゃないか。
「明日釣り行く時は、久々にこれ使ってみるか」
わくわくしてきたのか、勝手に口角が上がるのがわかった。
『父さん! 釣り番組始まるよ!』
『おう、今行くからな!』
俺はリビングのテレビの前に、ぺたりと座って画面をまじまじと見ていた。
『へえ、それを使うのか……』
父さんは釣竿やリール、ルアーの説明を聞きながら声を上げていたが、俺にはまだその種類も良し悪しも分からない。ただただ、画面の向こうにいる釣り人が魚を釣り上げ『大物ですよこれは! いやー、嬉しいな』などと言うのをわくわくしながら見ていた。
『ねえ父さん、僕も釣りしたい!』
『そうか、じゃあ今度の土曜日、一緒に釣り行くか!』
目を輝かせて笑う父さんの表情が、ゆっくりとかき消えていった。
……目が覚めた。
「——夢か」
そうだよな。テレビが流していたのは、もう放送されていない釣り番組。そして、父さんはつい先月に亡くなった。さらに言うなら、俺はまだまだ少年の姿だった。
「……ま、いい夢だったな」
うんと伸びをして、支度を始める。もちろん、釣りの。
釣りのロマンを教えてくれたあの番組も、父さんも、もうこの世には存在しないけれど。
けれど、俺の中には、どちらもしっかりと生きている。
だからこそ俺は、今でも釣りを続けているのだろう。
この小説内に出てくる釣り番組ですが、一応モデルがあります。
何年も前に放送は終わってしまいましたが、番組名が分かった方はいらっしゃいますでしょうか?




