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2019/06/13『黄色』『伝説』『嫉妬』

 遠い遠い、砂漠の国で起こった、とある物語。


 砂漠の一国に、不思議な姫がいた。

 その姫は、黄色い涙を流す姫だった。

 別に、黄色い涙を流す血筋だったわけではない。母親も父親も、その上の代も、皆透明な涙なのだ。

 だからと言って、褐色の肌に黒々とした目を輝かせる美しい姫を、黄色い涙を流すというだけでは、両親も、国民も、嫌うことはなかった。


 姫の国は、貧しかった。

 王様もお妃様も、賢く優しく、聡い人だった。しかし、姫の国には特産物がなかった。他の国に売れるものがなかったのだ。その結果、周りの国から物を買ってばかりになってしまい、貧しくなってしまったのだ。

 姫は、城を抜け出して城下町によく遊びに行っていたため、国民のことをよく知っていて、国民のことが大好きだった。

 だから国民が苦しんでいることも知っていた。そして、なんとかして助けたいとも思っていた。

 けれど姫はまだ若く、非力なのだった。

 姫はそれを嘆いて、泣いた。黄色い涙を流し続けた。


 そんなある日、姫は図書館でとある本を読んでいた。

 その本のタイトルは『遠き日の伝説』といった。

 そこに書かれた一つの伝説に、姫はどきりとした。


『黄の涙の人

 黄色い涙を流す人物が、稀に現れる。

 その人物の血は金色をしていて、血は空気に触れた十秒後に金となる。その人物の亡骸を埋めた場所は、亡骸を埋めた十年後に、宝石がたくさん取れる場所になる。』


 姫は小さな刃物を取り出すと、試しに指に小さな傷をつけた。

 その瞬間、指から金色の血がぷくりと膨れ、すぐに固まった。指からはがすと、それはキラキラときらめいて、それが金であることを教えた。


 姫は自室に戻ると、万年筆を手に取った。

 そして、紙に何かを書きつけると、石で出来た床の上に座り込み、そして服を脱ぎ、ナイフで腕を切りつけた。

 何か所も、何か所も。腕を切りつけた後は、両足を。そして、顔にも傷を作り、出来るだけ背にも腹にも傷をつけた。

 傷からは血があふれ、石畳の上で金へ変わっていく。

 姫は自らの血を金に変え、国民を助けようとしたのだ。服を脱いだのは、服に血が染み込まれたら困るからだ。


 姫の亡骸と遺言状を見つけたのは、王様自身だった。

 姫と久しぶりに話そうと思った王が姫の部屋に訪れた時、姫は事切れる直前だった。

 傷だらけで倒れる姫とその周りに溢れる金に王様は何が起こったのか分からず、ただひたすら、姫の名を呼んだ。

「おとう、さま……つくえ、の、うえに、てがみ……のこして、おき、ました。よん、で、くだ、さい……」

「姫よ、どうして、どうしてこのようなことを……!」

「……あいして、います。おとうさまと……おかあさまの、こと……くにの、みんな、の……こと……」

 それが、姫の最期の言葉だった。

 姫は父王に看取られて、自らの血であった金の中で、事切れた。

 父王は、遺言状を読み、どうして姫がこのような行為を起こしたかを知った。


『お父さま

遠き日の伝説、という本を読みました。その中に、黄の涙の人、という伝説があります。黄色の涙の人の血は、空気に触れると金になるそうです。亡骸を埋めた場所は十年後、宝石が取れる場所になるそうです。

お父さま、この金で国のみんなを助けてください。そしてその金で、十年持たせてください。そうすれば、私の亡骸を埋めた場所から宝石が取れ、皆が苦しまずに済みます。

私のことは事故死としてください。身体中の傷で、きっと事故死に見えるでしょう。

お父さま。お母さま。私はお父さまとお母さまを愛しています。この国の皆さまも、この国も、愛しています。いつまでも、大好きです。

皆の幸せを祈りつつ。』


 王は涙を流しながら、姫のサインを見つめた。そして、愛する娘の願いを無駄にしてはならないと、すぐに行動を起こした。

 姫は事故死とされ、こじんまりとした葬儀を執り行い、埋葬された。

 王はその後、姫の血からできた金を他国に売り、少しずつ豊かな国を作っていった。

 姫が亡くなった十年後、宝石が取れる場所が出来たため、その宝石を国の特産品として売り出し始めた。宝石の加工技術が発展し、それが石の加工に応用され、石の加工技術で勝る国は砂漠の中にはないと言われるほどにもなった。

 姫の国は豊かになり、国民の皆が幸せになった。他国の人々があの国の国民になりたいと羨み、妬むくらいには。

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