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2018/04/04『会社』『神話』『リアル』

隣の席の同期が出社してきた。

「おはよう。で、どうなんだい?」

「おはよう。最初の一言目がそれかい?」

「しょうがないだろ?ずっと気になってたんだ」

「まあそうだな。でもまずは仕事だ」

「分かった。昼にでも話そう」


昼休みになった。

俺と会社の同期である彼は、いつも通り食堂の窓際の端の席を取る。俺は日替わり定食とカフェラテ、彼は和食定食と緑茶を頼んだ。これもいつも通り。

さあ、議論の始まりだ。

「昨日の続きだね。『神話は実話か否か?』だったかな」

俺がそう切り出すと、彼は大きくうなづいた。

「そうだよ。そして君が実話ではないといい、僕が実話ではないかと言った」


彼がいつものように、大前提を確認する。

「まずね、大体それが実話かどうかなんて確かめる方法はないんだ。どちらか分かるわけがない。その上で本当かどうか話し合うのだけは覚えておこう」

俺はうなづいてみせる。

「ああ。じゃあ、俺から行こう。

俺は実話ではないと思う。そんな現実離れしたことなんて起こらないと思うな。あくまでも因果関係の上にこの世の中は成り立っているんだ」


彼は呆れた顔をする。

「……毎回聞いているようだけども、君はリアリストかい?」

「……毎度言っていると思うけど、俺は自分がリアリストかどうかは知らない。この世の中は因果関係の上に成り立っている。これは俺の価値観——物事の考え方だ」

いつもの質問に、俺まで呆れてしまう。何度も言っているのだから、覚えていてくれてもいいんじゃないかと思うのだが。


「……で、神話っていうのは現実離れしたものが多い。それが出来るのが神だと言うかもしれないが、それは虚像でしかない。神話っていうのは、全て嘘なんだ。偶然起こった出来事に神という虚像を映している。そうして人々がその神を……ただの虚像を信じやすくしているんだ」

「……やっぱり君、リアリストだろ?」

「……さっきも言ったはずだ」

俺が彼を睨み付けると、彼は慌てて「ごめんごめん」と言う。


「僕の番だね。

僕は実話だと思う。神話には偶然で済ませるには無理がある話がある。死の国に行った人の話も存在するし、アマテラスと太陽の話もあまりにタイミングが良すぎるじゃないか」

彼の話は面白いが、現実離れした例えばかり出してくる。そこがあまり好きではない。

「死の国に行った人の話……それはもしかしたら死の国に行った夢を見た人がそれを本当のことだと思い込んでいるだけかもしれない。アマテラスの話なら、長期間日が出なかったことがあって、『こんなことがあったに違いない』と人間が想像を付け足したに過ぎないかもしれない。そうすればタイミングなんて考えなくてもよくなる。全てが後付けだからさ」

彼はうなづく。

「なるほどね。なら弟橘媛おとたちばなひめの話は?」

日本武尊ヤマトタケルノミコトが海に出た時に海が荒れて……っていうあの話か。あれも偶然か想像の後付けだと思う。東国の支配をしたかった人が愛人と東国に向かい、嵐にあって……って話を同船していた人が飾り立てたのかもしれない。とある船が出た後に嵐になって、そのあと収まったからそこからこんなことがあったに違いない……とかね」

彼は面白そうに笑った。

「そうかもしれないね。いやあ、君の想像力はすごいなぁ。ならこれはどうだい?」

「どんな話かい?」

「それはね——」


議論は終わらない。が、非情にも昼休みを終えることを知らせるアラームがなった。いつも議論に集中してしまうため、アラームをかけているのだ。

「おっと、もう終わりの時間か」

「そうだね。続きはまた明日だ」

俺と彼の議論は、まだまだ終わらない。

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