2019/05/27『神話』『緑』『嫉妬』
むかし、この村には二人の村長候補がいたという。
ひとりは、武力に長けた者だった。
ひとりは、言葉に長けた者だった。
言葉に長けた者は、争いを嫌った。
武力に長けた者に村長になってもらおうと、
そう思うほどには、争いを嫌った。
しかし、武力に長けた者が争いを好んだ。
武力に長けた者は、村を襲う盗賊や獣を退治した。
そうして村の者の注目を引き、
村を守れる自分を村長に選んでもらえるよう、
武力に長けた者はそう考えた。
狙い通り、武力に長けた者は注目を浴びた。
それを見た言葉に長けた者は、妬んだ。
言葉で何が出来るだろう。
注目を浴びる相手を見るうち、
言葉に長けた者も注目を集めたいと思い始めた。
そこで言葉に長けた者は、
村の中でもひときわ大きく、
新緑の葉がなる巨木に、
突然しめ縄をかけ始めた。
どうしてかと村人に問われ、
言葉に長けた者は言った。
夢で、お告げをもらったのだ。
この巨木には、神が宿る。
だからこの木を敬うことだと。
そうすればこの村は安泰だと。
村人はそれを聞いたその時から
村にそびえ立つ巨木を崇め、
敬い、供え物を供し、
村の安泰を願ったのだ。
そのうち言葉に長けた者は、
夢でもらったお告げと称し、
様々な指示を村人に下した。
言葉に長けた者はいつしか、
神を宿す者と呼ばれ、
自然と村長になっていった。
村長は後世の人達にも、
神と崇められることとなる。
後世の言葉に長けた者が、
村長をモチーフに神話を作り、
それが今でも残っているという。




