2024/03/10『色欲』『時間』『真実』
――気付けば、長い時間が経っていた。
鳥の声が聞こえる。
窓にかかるカーテンの、その隙間から差し込む色は、薄氷の色。どこまでも冷たくて、きんと静かで、そして混じり気なく綺麗な――そう、それこそ、氷のように。
その囀りは、嘲りのようだった。
純粋で冷ややかな光は、穢れた私たちを浮き彫りにして疎外するようだった。
ごめんね、なんて。
なんて空々しい言葉だろうか。
隣で眠る大切な人は、何も知らない無垢な少年のような表情でいる。穏やかな寝息を立てて、不意に微笑みを浮かべさえする。
けれど、もうこのひとは、何も知らない無垢な者ではない。起きて真実に気付いた時、このひとが涙の海に溺れるであろうことさえ、私には、分かっていたはずなのに。
私が、教えた。
私が、穢した。
きっかけは、私の欲だった。
このひとは、私の言葉に騙されてくれて、私を甘えさせてくれただけ。
何も悪くないのだ。天使のように優しくて、いとおしいひとなのだ。私がきっと、生涯で一度きり、愛したひと。
そっとベットから降り、唇にひとつ、愛を重ねた。
むにゃり、とあなたは表情を少し動かしただけ。ちっとも起きる気配がない。
ずっと、お願いだからそのままでいて。何も知らないあなたのままでいて――なんて、叶いやしない願い事が胸に浮かび上がって。
苦く甘い思いを抱えて、部屋を出た。
服を着て、色々と支度をして。それでも日が昇る前に、家を出た。
この日を、ずっと待ち侘びていたのだ。
私がこの世界の煩わしいもの、そしてこの醜い自分自身から逃げるための、一番最悪で最高の方法を実行するこの日を。
でも、その前に。
私という人間がいたことを、どこかに刻んでおきたかった。私の全てを、どこかに、残しておきたかった。
刻む場所はきっと、あのひとしかないと思った。あのひとが私のことをどんな形であれ、覚えていてくれればそれでいい。そう思うほどに私はあのひとのことが愛おしくて、そして、自分勝手なのだった。
さよなら、私の愛しい人。
――最期に、私の願いを叶えてくれてありがとう。
この作品をR15指定したくはないのですよ。
けど怒られたくもないのです。
……どうしたもんですかね。
セーフであることを祈るばかりです。
2024/03/10 21:18
誤字を修正しました。




