2019/05/24『机』『過去』『夕陽』
「かつて、ここにひとりの生徒がいた」
どうして、こんな語りが始まったのだろう。
僕はただ、放課後の教室に、忘れ物を取りに来ただけなのに。
「その子にはね、とある使命があった」
何故か目の前には、今日、転校生としてやってきたその子がいて。
窓際、一番後ろの机に腰掛け、窓の外を見つめていて。
僕の気配に気付いて振り返ると、転校生は僕の名を呼んだ。
「その子は、その使命のため、死ななければならなかった」
転校生は僕に、突然語り始めたのだ。
僕は何も、言っていないのに。
ただただ、窓から射す夕陽が、眩しかった。
「その子には、この屋上から身を投げ、そして、ここの守護霊になる使命があったの」
ふと、気付いた。
夕陽に照らされ、神々しく見えるその転校生。
その転校生が、かすかに、透けている。
「——その守護霊が、私」
転校生、否、守護霊は、儚い笑みを浮かべた。
「ずっとこの学校を守ってきた。でもたまに、寂しくなるの。ずっとひとりぼっちだから」
守護霊の目には、涙が浮かんでいた。
「だから、お願い……友達に、なって」
差し伸べられた手に、駆け寄って、その手を掴む。
その瞬間、透けていた姿が、元にもどった。
もう、透けていない。
「……いいよ。こんな冴えない、僕でもいいなら」
「……ありがとう」
そう言った彼女の笑みほど、美しいものを見たことがなかった。