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2021/10/22『暮らし』『白』『夕陽』

 光を取り込む玄関。

 今時珍しく、障子のあるリビング。

 ダイニングキッチンには、自然光の入り込む窓。

 子供部屋には厚手の白いカーテン。

 書斎兼寝室には薄手の白いカーテンと白の遮光カーテンが垂れ下がる。

 白のレースカーテンがひらめくのはベランダだ。

 そんな家に住んでいるのは、一人の女性と一人娘。二人きりで暮らすには少し広い気もするが、二人はあまり気にしていないようだ。


 女性の『朝』は、日によって訪れる時間が違う。


 遮光カーテンで暗くなっている部屋の中に、アラームが鳴り響く。女性はスマホを手に取りアラームを止めると、うんと伸びをしてから遮光カーテンを開けた。

 窓から差し込む陽が、二つのカーテンを真昼の時間に染めていく。

 お昼の十二時過ぎ。一般的な人々は、この時間を朝とは呼ばない。彼女が眠りについたのが朝の九時であったことを考えると、生活習慣はあまり良いとは言えないようである。

 けれど、短い睡眠時間にも関わらず、彼女は眠そうな素振りを見せない。

「お腹すいた……」

 ぽつんと呟いて、二階の書斎兼寝室から出てダイニングキッチンに降り、簡単にブランチを済ませる。高くあがったおひさまの光をめいっぱい取り込む窓から降り注ぐ金粉に包まれながら、女性は一通りの家事を済ませる。

「さあて、っと。締め切りが近いから頑張らないとね」

 書斎に戻った彼女は、卓上にあるパソコンを起動させた。そして開いたのは、ワープロソフト。

「今日もよろしく」

 声をかけてから、縦書きの文章に目を通し、続きを綴っていく。

 彼女は物語を(えが)くことを職とする、著名な小説家だった。


「ただいまーっ!」

 そんな声が家に響いたのは、夕陽がカーテンを染める時間になった頃だった。

「おかえりー」

 小説の世界にのめり込んでいた彼女は、現実に引き戻されて声を張り上げる。

「お母さん、今日の色も綺麗だねぇ」

 階下に降りた彼女に、学校から帰宅した一人娘は障子を指さす。

 障子の白は、みかんのような橙に変わっていた。

「そうだねぇ。毎日違う色だから楽しいでしょう」

「うん!」

 この家にやたらと白いカーテンや障子があること、そして明かりの入る窓が多いことは、これが理由だ。


 小説家たる彼女が、自分の感性を豊かに保つために。そして、生活習慣が乱れがちな中で、少しでも時間感覚や季節感を失わないために。

 いや、それよりも。

 自然の色が、窓の外に広がる空が、部屋に染み渡っていく様を楽しむために、白が随所に散りばめられている。


「今日の晩ご飯はなにがいい?」

「カレーがいい!」

「よーし、じゃあ一緒につくろうか!」

 夕食の準備から始まり、一人娘を寝かせるまでは主婦の顔になる彼女。けれど、そのあとは再び締切の迫った小説家になる。

 そして、朝まで書き続け、娘を起こして朝食を食べさせ、学校に送り出してから、ようやく彼女に『夜』が訪れるのだった。

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