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2021/09/04『童話』『王国』『絶望』

 時空の扉を開く。

 魔法が当たり前に存在する、異世界『おとぎの国』へと向かうための道を。

 ――え? 怖くないのかって?

 まぁ、時空を越えることは、確かに危険ではある。

 時空の狭間に落ちて戻れなくなった者もいる。『おとぎの国(異世界)』に住まう悪しき魔女に騙され、『現実世界(こちら側)』に帰ることができなくなった者も。未知の病に倒れた者だっている。

 時空を越えることで絶望に追いやられる者は、多少存在する。

 けれど私たち『翻訳者』は――『おとぎの国』と『現実世界』の言葉を操り、時空を超える方法を知り、自分の世界のことをあちらに伝え、あちらの世界の出来事をこちらの世界に持ち帰る者は、その役目を捨てない。

 互いの世界の、発展のために。


 ……もちろん、世界が違うから、役立たない知識もある。

 例えば、かつてこの世界では、数多くの罪のない人々が炎で焼かれることがあった。

 その原因のひとつに、『おとぎの国』から伝わった悪しき魔女の話がある。

 悪しき魔女によって、多くの人が虐げられたという話は、なんの罪もない人を罪人に仕立て上げるにはちょうど良かったのだろう。こちらの世界に、魔女など存在しないというのに。


 けれど、悪いことだけではないのだ。

 例えば、『おとぎの国』にある小さな王国・ウェリエーでは、勤勉なお姫様が『現実世界』の知識を応用して『魔法哲学』という学問を生み出したという。

 他にも、『現実世界』の科学技術が『おとぎの国』の魔法薬開発に貢献している。その逆も、また然り。

 そして、互いの歴史は、互いの世界に住む人々の心を豊かにする。

 皆様も、『おとぎ話』という言葉を聞いたことがあるだろう。あれらは、『おとぎの国』で実際に起こった出来事なのだ。

 皆、絵空事だと思っているが、あれも立派な歴史のひとつ。ただ、世界が違うだけで。

『おとぎの国』でも、こちらの世界の話は『(うつつ)の物語』として語り継がれている。

 そして、『おとぎ話』も『(うつつ)の物語』も、読む人々の心を豊かにしていくのだ。


 ……おっと、ひとつ忘れていた。

 そんな、異世界のことを伝える『翻訳者』の存在は、公にはされていない。だから、ここでの話は、どうか内密に。

 それじゃ、わたしはそろそろ『おとぎの国』に行こうかな。

 ――ええ? わたしの名前を知りたい?

 流石にそれは困るなぁ……。

 では、代わりにわたしの職業を伝えておこう。

 わたしは、『おとぎの国』の話を『おとぎ話』にして、この世界の人々に届ける作家。

 童話作家、だよ。

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