2021/05/09『メモ』『少女』『怠惰』
部屋から出てこない少女に、母親は痺れを切らしたらしい。ドンドン、と閉ざされた子供部屋の戸を叩きながら、大声をあげた。
「いつまで大学に行かない気なの? そんなに閉じこもってたらナマケモノになっちゃうわよ。早く出てきなさい!」
いつの間に、こんなに怠惰な子になったのだろう。
そんなことを考えながらため息をつく母親の、一枚板を挟んだ、向こう側。
少女は、パソコンに向かい合ってメモを取りながら一つ息をついた。シャーペンでルーズリーフに記した内容は、『ワークショップ 動物小説 猫』。
『えー、では、今日は、猫が登場する小説の中でも、この作品を取り上げて講義を行おうと思います』
画面の向こう側には、大学の教授がいる。
『出席を取りますので、名前を呼ばれましたら返事をしてください』
母親の喚き声に、少女は呆れたように呟いた。
「まったく……オンライン授業に切り替わったって言ってるのに、いつになったら理解してくれるんだか」
『――さん、神崎さん、いませんか?』
「……っ! はい、います」
慌ててミュート機能を解除して反応した少女に、教授は『ちゃんと聞いていてくださいね』と小言をこぼした。謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、扉の向こうから再び母親の声が響く。
いつになったら、分かってもらえるんだろう。
うんざりと、子供部屋のドアを眺めながら。
少女は一つ、ため息をついた。




