2021/04/20『菓子』『ベッド』『退廃』
「ね、見た目はラムネ菓子と変わらないでしょ」
そう言ってベッドに腰掛け笑う彼女は、焦点の定まらない目でこちらを見ようとしている。
「そうかもしれないけどさぁ」
ミントガムを嚙みながら、ゆるりと首を振って。
「僕は嫌だよ」
「あら、怖いの?」
なにも言わない僕に、彼女はクスクスと声をたてた。
「なーんにも怖くなんかないのよ。なにもかもが眩しくってね、訳もなく幸せになるの。世界が騒がしくなって、楽しいわ」
ほら、と投げられた銀色のシート。ラムネに似た錠剤が、そこにはある。
空のシートが大量に散乱する周囲。洗われていない食器や腐った食べ物が放つ悪臭。床にはうっすら埃が積もっているような気がする。
「最初は一粒でも十分。私はもうたくさん飲んじゃうけどね」
ロックグラスにウイスキーを注いであおる彼女は、どこか病人じみていた。
「……タバコ吸ってくる」
嘘だった。とにかくここにいたくなかっただけ。
「いってらっしゃーい」
疑いのかけらもない、間の抜けた声。
――いつからこんな風になったんだろう。
分からないけれど、一つ確かなことがあるならば。
退廃的な暮らしの中にいる彼女には、もうついていけない。




