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2021/03/03『魔王』『妖精』『都市』
ちょっとだけ、空想してみる。
目の前で俺のことをガミガミと怒っているのは、実は魔王だ。目眩しのために会社の上司の姿になっているだけで。
この会社の本当の姿は魔王城。他の社員は皆が敵。四天王だったり、魔族だったりする。
俺は魔王に唯一立ち向かえる勇者だが、今は力がないために部下の振りをして敵の動向を探っている。
言うことを聞かない部下を理不尽に怒る魔王。
さすがの勇者も疲弊してしまうが、そんなとき、目の前に聖なる妖精が現れるのだ。
『勇者よ、今こそ力を発揮するときです!』
妖精は俺に魔法をかけ、勇者の姿へと変身させる。
俺は腰にある剣で目の前の魔王を切り刻んで――。
「――聞いているのか、佐々木!?」
「はい、すみません……」
……あり得ないよな、そんなこと。
異世界ならまだしも、この広い大都市の中にある大企業の一室で、そんなファンタジーが始まるわけがないのだ。
目の前の上司にバレないように、そっとため息を落とした。




