2021/01/09『巫女』『ボールペン』『令和』
今回のお題はTwitterで募集しました。
八雲たけとら*さん、ありがとうございます!
「巫女の月子ちゃん」
聞き慣れた声が、私のことを呼び止める。
「そこの子がそれ、落としてったよ」
ボールペンを指さして教えてくれたのは、着物姿のそらやだった。
「ん、ほんとだ」
拾い上げて持ち主へと届ければ、「ありがとう、巫女さん!」と笑顔を返された。
「いいのよ、もう落とさないでね」
その子はこくりと頷いて、この神社を後にしていく。
「……いやあ、いつの時代もかわいいよね、ちっちゃい子って」
「たしかにそうだね。次の世代の子たちにも、そらやたちのことが見えればいいんだけど」
「無理だろうね。みんなもう、ぼくら幽霊や妖のことなんて、信じちゃいないんだから」
そう言うそらやには、影がない。いわゆる幽霊、お化けってやつだ。
「……月子ちゃんもさ、巫女なんてやらなくたっていいんじゃないの。もう令和なんて名前の時代になったんだしさ」
「えっ?」
不意に投げかけられた言葉。あまりに急すぎて、なにも反応できなかった。
「人間はぼくらのことを信じなくなった。見える人なんてもう残りわずかで、幽霊や妖自体の数も減っている。そんななか、幽霊や妖のことが見える人として存在するのは……しんどいんじゃないの?」
どきり、とする。
そらやの言葉は、間違っていない。
『幽霊なんていないでしょ』
『こんな時代に巫女って、ねえ』
そんな言葉を投げかけられたことも、何度かある。
でも。
「今私が巫女をやめたら、誰がそらやと話をするの? 誰が幽霊や妖の声を聞くの?」
見えるのに見えないふりをするなんてことは、私にはできない。
「目の前にいる人と言葉を交わせないなんて、つまらないよ」
そう言ったら、そらやは驚いたように、目を丸くして。
そしてすぐに、満面の笑みを見せて。
「月子ちゃんはいつもそうなんだから。昔っから変わらないなあ、本当に」
「昔って、私とそらやが出会ったのは二十年前でしょ。長い時を過ごしてるあんたにとっては、大した長さじゃないはずだけど」
そらやにそう返しながらも、ふと、思い出す。
――初対面の時、そらやは私に「久しぶりだね」と言っていたな、と。




