2020/12/13『空白』『黒』『暮らし』
JRの駅前中央通路は、人だらけだった。
アルバイトを終えて、私鉄乗り場に向かおうと歩いている最中のこと。空白は存在するものの、『ディスタンス』と呼べるほどの距離もない、そんな人混みの中に潜り込む。
歩く。歩く。
改札の前を、切符売り場を、通り過ぎて。
駅直結のショッピングモール入口を眺めてみる。
ガラス張りの扉に描かれた、クリスマスのイラスト。サンタは大荷物を抱え、ツリーはキラキラと輝いて、トナカイは楽しげに空を舞う。
――ガラス戸にプリントされた店のロゴが動き、扉が開く。吐き出され、吸い込まれる人々を見ながら、ひとつため息をついた。
去年の十二月よりも人が少ないな、とは思う。けれど、ここに何度も通い続ければ分かってしまうのだ。
普段の土日と、たいして変わらないことに。
もうひとつ、ため息。
分かっている。ひとは外に出ないと暮らしていけない。
いや、家の中で暮らしていける人もいるだろう。けれど、そんな人はわずか。ほとんどの人は外へ行き、職場で働き、店で物を買い……そして、他者と時を共有しないと生きていけない。
私だってそうだ。時給がそれなりに良く、交通費全額支給や賄いあり、という好条件で働けるからと、去年から働き始めたバイト先は、私鉄と徒歩で約一時間かけないと来ることができないし、帰りもまた同じ。
そりゃあ、外出が怖くないと言ったら嘘になる。
混み合う電車内。人通りの多い道。自粛のじの字も見えない店内。不安にならないわけがない。
けれど、外に出なければ、別の意味で死が待っているのだから、どうしようもない。
「ほんと、どうなっちゃうんだろうな、この先」
中央通路を抜けて、人が少しだけまばらになった場所を歩きながら。
日が落ちて真っ黒な空を見上げて、呟いた。




