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2020/12/12『過去』『甘い』『天災』
サヨナラ、なんて告げられない。
言えるわけがない。
あの子がいないなんて、信じたくない。
けれど、頭では分かっている。
あの子は、この世界に存在しない。
いるわけがない。
あの子は、天災で死んだ。
安全な場所にいたのに、大切な人を守ろうとして。
短い命だったのだ。
けれど、頭では分かっている。
あの子の大切な人を危険に晒したのは、わたし。
甘い蜜で花が虫を呼ぶようにして。
過去に、あの子は肉親を事故で失った。
これ以上大切な人がいなくなるのが嫌なのだ。
だからあの子は、自分の命を捨てた。
けれど、頭では分かっている。
彼女を殺したのは、わたし。
わたしがあの子の背を押したのだ。
あの子はもう、この世界にはいない。
天災で死んでしまったから。
信じたくないけれど、変えようのない事実。
けれど、頭では分かっている。
あの子は、そもそもこの世界に存在しない。
これもまた、変えようのない事実なのだ。
いっそのこと、狂えればよかったのに。
何もかも理解できなければよかったのに。
現実と虚構の境目が消えてしまえばよかったのに。




